第22回 〜 演歌 〜
娘が沖縄から東京にやって来た。歌の仕事を頼まれたと言う。その収録だ。
「演歌なんだよ。そのコーラス」
「あなた、ジャズ歌手じゃなかったの?」
ジャズをやりたいというから苦労して、ニューヨークのジャズ専門学科を出させたのに。
「頼まれちゃったからしょうがないんだけど、パチンコ屋さんで流す歌らしい。面白いじゃん! 今、コロナで仕事ないし」
「ソロなの? あなたに歌えるかしら? 難しいんだよ、演歌は」
「ちゃんと演歌歌手のおじさんが歌うんだけど、バックが6人くらいで、ソレ、ソーレ、ってやるみたいな。でも難しいんだよ、歌詞が。意味わかんない」
アメリカ生まれだからしょうがない。
見せてもらうと、昭和中期生まれの私でもわからない言葉、読めない字がある。傾けとか、「漢」は輩と読ませたいのかな?
「ま、演歌なんて、究極の男心、女心を歌ったようなもんだから、その気を出して歌ったら? ニッポン男児は、これと思った女は、体を張っても守り抜く、みたいな」
「女心は?」
「好きなあんたのためなら、死んでもいい。誰かに取られそうなら、殺してやる! くらいの情熱的な恋心よ」
フーン、と練習している。
「この、睦月、皐月、神無月、って、1月、5月、10月でしょ? それってなんなの?」そうか、語呂を合わせてるんだ。
「私だったら、睦月、水無月、神無月にするけどね。3、4、5文字で調子がいいじゃない? ま、一年中、ってことよ。一生あんたを守り抜く、みたいな」
花の名前も出てくる。女性のたとえとして、大和なでしこ的な、蓮華、牡丹、撫子、桜って。LGBTQ支援者には怒られそうだけど。これも日本の文化なんでしょうね。
「それが出たら、どこのパチンコ屋で流すか教えてね。友だち引き連れて、聴きに行くわ」
結構楽しみである。