恋愛と言えばフランス映画、という思いを再確認させてくれた作品。しかも、カトリーヌ・ドヌーヴ、彼女の実の娘キアラ・マストロヤンニ、シャルロット・ゲンズブールが出ている。フランス映画ファンとしては見逃せない。 舞台はフランスの中都市。最終列車に乗り遅れたマーク(ブノワ・ポールヴールド)は、バーでシルヴィ(ゲンズブール)を見かけて声を掛ける。二人は人気のない夜の街を朝まで歩き語り合い、一週間後パリでの再会を約束する。ところが約束の時間にマークは現れなかった。 その後、ある偶然からマークはソフィア(マストロヤンニ)を助けることになり、二人の関係は婚約へと発展。が、彼がソフィアの母(ドヌーヴ)の家を訪ねた際、壁に飾られたシルヴィの写真を見て愕然とする。シルヴィはソフィアの姉だったのだ。 姉妹と一人の男との三角関係、ありふれた設定だが見せ方がフランス的、恋愛至上主義的に貫かれている。シルヴィもソフィアもマークに一目惚れして、それぞれに付き合っていた男とあっさり別れてしまうが、マークを演じたポールヴールドはコメディアン出身で個性的ではあるが、三角関係の中心にいる男とは思い難い風貌。ところが、姉妹共に逡巡ゼロの確信犯ぶりで、シルヴィに至ってはたった一度会っただけのマークとパリで会えなかったことが大きな打撃となり、よりを戻した恋人と米国へ出奔してしまう始末だ。 女が大好きなのだと自認するマークは女たらしでなく、自分の情熱に忠実な男。図らずも姉妹に惹かれてしまった自分の感情をたたみ込むことが出来ない。ソフィアとの結婚式にシルヴィが現れ、彼は怖れおののくが、怖れているものの正体は家族に対する秘密ではないのである。そして、母はそんな3 人の様子に何かを嗅ぎ取っていくが、静観を続ける。これが他国の映画なら、この母はきっと危険な三角関係に口出しするに違いない。 恋愛の情熱をモラルや家族などで縛ることはできない。本人にすら止めることはできない、という確信がフランス映画をフランス映画たらしめているのではないか。 その不変なる確信に呆れることもあるが、ファンもまたフランス映画への愛を止めることはできないのである。 監督・脚本は『王妃に別れをつげて』ブノワ・ジャコー 。 上映時間:1 時間46 分。シアトルは3日からSeven Gables Theatreで上映中。 [新作ムービー]