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情熱から芽生えた抵抗の精神『Disobedience』

上映時間:1時間44分
写真クレジット:Bleecker Street
シアトルではSeattle 10、Pacific Place 11で上映中。

今年、トランスジェンダーの女性を主人公にした「ナチュラルウーマン」で、アカデミー外国映画賞を受賞したチリのセバスティアン・レリオ監督の最新作。彼にとっては初の英語作品で、本作の主人公はレスビアンのふたりである。

ロンドンの敬虔なユダヤ教徒の家で育ったロニート(レイチェル・ワイズ)は、その暮らしを嫌い、ニューヨークで写真家として生活していた。そんな彼女の元に、父の訃報が届く。父はラビと呼ばれるユダヤ教聖職者であった。急ぎロンドンに帰ったロニートは、かつて恋愛感情を抱いていたエスティ(レイチェル・マクアダムス)と再会するが、彼女が父の後継者でラビとなるドヴィッド(アレッ
サンドロ・ニヴォラ)と結婚をしていることを知り驚く。

何年も前に父ひとりを置いて突然ロンドンを去ったロニートに対して、ユダヤ教コミュニティーの人々は冷たかった。しかし、エスティは違っていた。ロニートを見つめる熱い視線、短い会話を通
して、ふたりは瞬く間にかつての情熱を取り戻していく。

ワイズ、マクアダムスという実力派女優ふたりへの注目度に加え、ポスターから抱くのは女同士の情熱的な恋愛映画というイメージ。確かに恋愛映画ではあるのだが、物語はその情熱を通してふたりの女たちの中に芽生えていく抵抗、反抗の精神である。

ふたりの関係がコミュニティーの噂となり、夫のドヴィッドに詰め寄られたエスティは、ロニートをニューヨークから呼び寄せたのは自分であると告白。その後、ユダヤ教コミュニティーに適応しようとしてできなかったエスティの苦悩と自由への希求がいくつかのドラマを通して描かれていく。

不従順という視点から見ていくと、初めはロニートに、中盤からエスティへ、そして次第にドヴィッドへと焦点が移っていく。幼なじみだった3人が互いの真実をぶつけ合う姿に、愛とは何か、自由とは何か、という大きな問いかけがあり、静かな小作品だが、前作に引けを取らない優れた映画作品に仕上がっていた。

レリオ監督は、性的少数者が受ける偏見や差別を通して、彼彼女らの内面で起きる大きな心理的、感情的うねりを描くことに長けている。俳優らの役柄への深い理解力もあると思うが、それを引き出した監督の映画術を超えた人間への洞察力と共感力こそが彼の本領なのだろう。欧米の映画にはない独自の知性を感じさせる映画世界を、ぜひ堪能して欲しい。

土井 ゆみ
映画ライター。2013年にハワイに移住。映画館が2つしかない田舎暮らしなので、映画はオンライン視聴が多く、ありがたいような、寂しいような心境。写生グループに参加し、うねる波や大きな空と雲、雄大な山をスケッチする日々にハワイの醍醐味を味わっている。