『Doctor Strange』
(邦題『ドクター・ストレンジ』)
『アヴェンジャーズ』などを生み出したマーベル・コミックのスーパーヒーローの一人がドクター・ストレンジだ。このラインの映画化は増え続け、今やハリウッド映画はスーパーヒーローものオンパレード。興行的にも大成功が続いている。本作もその流れの一つだが、この主人公は異色で、目を見張る特撮映像と適度なユーモアと共にかなり楽しめる作りになっていた。
天才的な脳神経外科医スティーヴン・ストレンジ (ベネディクト・カンバーバッチ)が交通事故に遭い、手が自由に使えなくなった。絶望のどん底で、チベットに奇跡的な治療法があることを知り、カトマンドゥへ向かう。そこで本物の魔術を使うエンシェント・ワン(ティルダ・スウィントン)と出会い、厳しい修行の末にストレンジは3次元世界の常識を超える超常能力を身につけていく。
医師として論理的世界しか信じなかった主人公に、手が動かない理由はマインドにあると諭すエンシェント・ワン。彼女に「目を開け」と言われ、胸をひと突きされると、彼の肉体から幽体が飛び出す。幽体離脱を通して驚異的な異次元世界を体験した彼は、兄弟子バロン・モルド(キウェテル・イジョフォー)に導かれ、傲慢だった自分のあり方を振り返っていく。
『マトリックス』を彷彿とさせる意識覚醒の物語が前半で描かれ、後半はエンシェント・ワンの高弟で奥義を書いた文書を盗んだカエシリウス(マッツ・ミケル)らが使う3次元を歪める魔術との対決へと展開していく。
この映像が素晴らしかった。『インセプション』で初登場したパリの街が上下へと動き出す特撮技術がさらに進化した形で、ニューヨークの摩天楼が上下左右に動き出してエッシャーの絵画のような世界が生まれ、その中を魔術師らが縦横無尽に動き回るのだ。ワクワクする映画体験であった。
監督はホラー映画を多く手がけてきたスコット・デリクソン、製作者のケヴィン・ファイギは『マトリックス』のファン自称。意識の覚醒に関心のある人は楽しめるかもしれない。
カンバーバッチを始めメインに欧州の実力派俳優を配して、作品を引き締めていたように思うが、チベットの魔術師役に白人女性を配したのはいかがなものか。とはいえ、平然と人種差別を口にするドナルド・トランプが大統領になる米国の一面の本音を知れば、何をか言わんやである。
上映時間:2時間31分。シアトルはシネコン等で2D、3D両バージョンで上映中。
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