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登山家という強靭な生き方『Meru』

08-Meru - 3_opt ヒマラヤ山脈の中でも切り立つ頂上と垂直の壁で知られる7000m級のメル-中央峰シャークスフィン(形がサメのヒレに似ている)。その登頂に2度に渡って挑んだ3人の登山家、コンラッド・アンカー、ジミー・チン、レナン・オズタークを追ったドキュメンタリー映画だ。撮影はナショナル・ジオグラフィックなどに寄稿する著名な山岳写真家でもあるジミーとレナン自身が担当、2人が自らの登山の様子を追った厳しい様子と、息をのむ絶美のメルの映像に圧倒される山岳映画だった。

メルへの登頂は日本の馬目弘仁率いる鱶鰭同人会など世界中の登山家によって成し遂げられているが、頂きへ直上する最難ルートは複雑で危険性が高く未登峰だった。08年に最初の登頂に挑んだ3人は8日分の食料だけで17日も登頂を続けた。

当時20代だったレナンは、素手で岩登りをするフリークライマーとして知られ、高山登頂は未経験だったが、ベテラン登山家でエベレスト登頂を何度も経験しているコンラッドの誘いを受けて参加。厳しい初登頂に苦戦を強いられる。ジミーは06年にエベレストに登頂し、頂上からスキー滑降をした経験もあるほどのアスリートでコンラッドにとっては命を預けあうパートナー。この2人が若いレナンを支えつつ登頂を続けたが悪天候に見舞われ、頂上100mを目前にして断念。そして11年に再度挑戦をすることになるのだ。

この3年間にジミーとレナンの身に降りかかった悲惨な事故。奇跡としか言いようのない生還の記録も克明に撮影されており、身体的心理的障害を乗り越えていく登山家という強靭な生き方が描かれていく。監督はジミー・チンと彼の妻でドキュメンタリー映画作家のエリザベス・チャイ・バーサリー。登山家を支える妻たちの毅然たる心情も記録されている。

登山家には必ずメンターが必要であること。コンラッドもメンターと共に登山することで経験を積んだ。そのメンターの事故死、信頼するパートナーの事故死を乗り越えて今のコンラッドがいる。事故と死と隣り合わせに生きるのが登山家なのだろう。そんな彼らを見ていると、なぜ登るのか?は愚問と感じられた。

ちなみに、ヒマラヤ山脈はブータン、中国、インド、ネパール、パキスタンにまたがり、カラコルム、ヒンドゥークシュ、天山、崑崙などの山脈を含み、7,200m以上の山が100峰もある一大山脈。エベレストは最高峰ではあるが、未登峰の困難を極める頂きは多い。登山家が後を絶たないわけである。

上映時間:1時間30分。シアトルはLandmark’s Guild 45th Theatreで上映中。

[新作ムービー]

土井 ゆみ
映画ライター。2013年にハワイに移住。映画館が2つしかない田舎暮らしなので、映画はオンライン視聴が多く、ありがたいような、寂しいような心境。写生グループに参加し、うねる波や大きな空と雲、雄大な山をスケッチする日々にハワイの醍醐味を味わっている。