注目の新作ムービー
フェミニズムの到達点のひとつ
Black Widow
(邦題「ブラック・ウィドウ」)
ほぼ1年ぶりに劇場で観た映画が本作。そのせいか、娯楽性のあるアクション映画の楽しさはシアター鑑賞にこそあり、と感慨深かった。もういくつ作られたか追うのが難しい「マーベル・シネマティック・ユニバース」作品。「アベンジャーズ」シリーズで活躍した謎の元女スパイ、ブラック・ウィドウことナターシャ・ロマノフ(スカーレット・ヨハンソン)の過去をたどる物語だ。「シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ」で描かれたアベンジャーズ分裂事件後に、罪を問われ逃亡者となっていた時期からストーリーは始まる。
ノルウェーの山に潜伏中のナターシャ。謎の合成ガスが送られてきた直後、顔を隠した暗殺者の急襲を受ける。辛くもガスを守り抜いたナターシャは、送り主のいるブタペストに向かう。そこで彼女は20年ぶりに「妹」エレーナ(フローレンス・ピュー)と再会を果たす。かつてふたりは、レッドルームというソビエトのスパイ組織の潜入スパイとして、家族を装ってオハイオで暮らしていた。姉妹を演じたふたりと、父役のアレクセイ(デヴィッド・ハーバー)はレッド・ガーディアンと呼ばれたスーパーソルジャー、母役のメリーナ(レイチェル・ワイズ)も先代のウィドウで科学者だった。任務が済むとバラバラになった4人。幼かったエレーナも、ナターシャと同じ暗殺者として訓練を受けたが、アレクセイらを本当の両親だと思っていた。
エレーナから、レッドルームが今も健在で、ドレイコフ(レイ・ウィンストン)が少女たちを洗脳してブラック・ウィドウという暗殺者に育て上げ、世界を陰から操っていることを知らされるナターシャ。合成ガスで洗脳から覚醒したエレーナは、ドレイコフとの因縁を持つ姉と共に、レッドルームの壊滅とウィドウたちの解放を目指すのだった。
バイクを使った合成ガスの争奪アクションを経て、レッドルームの所在を求める擬似家族4人の再会が果たされる。だが、父役は自己中だし、母役はドレイコフとのつながりが切れておらず、関係はギクシャク。ここで家族関係の屈託や失望などがしっかり描かれている点が面白く、アクション映画経験のないオーストラリアの女性監督、ケイト・ショートランドの演出が光っていた。単なるアクション大作ではなく、擬似家族しか持てなかった孤独なナターシャの過去の過ちなども描かれ、彼女のファンとしてはそれなりに満足。また、明るくコミカルな妹のキャラクターも姉との対比で際立ち、愉快な掛け合いを続ける擬似姉妹は息もぴったり。ドレイコフへの復讐へと突き進む姿が頼もしい。
姉妹が極悪男にマインドコントロールされる若い女たちを救うために闘う、というプロットが、#MeToo運動が吹き荒れたハリウッドを反映している気がした。娯楽アクションとはいえ、映画は時代を映す鏡。フェミニズムの考えが米国社会やハリウッドに与えた影響は大きく、本作はその到達点のひとつの形なのかもしれない。
Black Widow
邦題「ブラック・ウィドウ」
上映時間:2時間14分
写真クレジット:Walt Disney Studios、Motion Pictures
シアトルではシネコンなどで上映中。