注目の新作ムービー
キラキラとみずみずしい
CODA
本年度のサンダンス映画祭でAppleとNetflixが争奪戦を繰り広げ、映画祭史上最高額でAppleが配給権を取得した話題作。CODAはChild of Deaf Adultsの略で、聴覚障害者を親に持つ子どもという意味だ。家族でひとりだけの健聴者として育った少女を主人公にした秀作コメディーである。
漁師町の高校に通うルビー・ロッシ(エミリア・ジョーンズ)は、聴覚に障害のある漁師、父のレオ(ダニエル・デュラント)と兄のフランク(トロイ・コッツァー)に付き添って漁に出かける家族思いの少女。ひそかに憧れているマイルズ(フェルディア・ウォルシュ=ピーロ)がコーラス部に入ったので、自分も入部することに。ところが人前で歌ったことがないため、初回の練習で逃げ出してしまう。教員のバーナード(エウヘニオ・デルベス)から発声指導を受けて歌声を披露すると、ルビーの優れた才能を確信したバーナードにコンクール出場を提案される。マイルズとデュエットを組むように言われ、ふたりはギクシャクしながら練習を始める。
マイルズとの恋が芽生え、歌も大好きと自信を深めるルビー。聴覚のない家族に歌の道に進みたいと訴えるが、彼女の歌唱力を見極められない家族は心配し、困惑する。しかも父と兄の漁に大きな困難が持ち上がり、ルビーは問題を理解するために手話通訳として家族を助けねばならない。歌の練習もおろそかになり、ルビーのフラストレーションはたまっていく……。
ラブラブの両親には隠し事がなく、問題が起きると猛スピードの手話で大論争をする家族の姿がすがすがしい。ルビーはそんな家族への愛を自覚しているのだが、旅立ちの時は目前。というわけで、詳しく語らなくてもエンディングまでは想像通りの展開である。普段ならこういう映画はあまり評価できない気になるのだが、なぜか本作は違った。
2014年公開のフランス映画 「エール!」のリメイク。新進の女性監督、シアン・ヘダーが脚本も担当し、前作で聴覚障害者役を障害のない俳優が演じたことへの批判を踏まえて、本作では聴覚障害のある俳優が演じ、通訳も全てCODAが担当した。そんな作品へのポジティブな姿勢や、ルビーの歌声の素晴らしさもあったと思うが、困難を乗り越えて前へ前へと進んで行こうとする若さのエネルギーがキラキラとみずみずしく描かれ、心地良かった。
思えばなんと暗い夏だったろうか。あえて何がとは言わないが、こんな時期に明るさがあり、直球で希望を感じられる映画作品に触れることは悪くなかった。日常が平穏だからこそ、ホラーもクライムもどんでん返しも娯楽として楽しめるのではないだろうか。大谷翔平のホームランにも心躍るが一瞬に過ぎず、この暗さは拭えない気がしている。
CODA
上映時間:1時間51分
写真クレジット:Apple
Apple TV+で視聴可能。