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Downton Abbey: A New Era〜注目の新作ムービー

注目の新作ムービー

極甘とわかって食べる豪華なケーキ

Downton Abbey: A New Era
(邦題「ダウントン・アビー:ア・ニュー・エラ」)

「ダウントン・アビー」は、英国の架空の地方にあるダウントン・アビーの邸宅を舞台に、20世紀初頭のエドワード朝時代後における階級社会のあり方を、貴族であるクローリー家とその使用人たちを通して問い大ヒットしたドラマシリーズ。本作は映画化第2弾で、2019年の第1弾からの未解決案件その後を追う内容だ。

ドラマを観ていない友人に、「映画だけでも面白い?」と聞かれて返事に窮した。とにかく登場人物が多い群像劇。そのひとりひとりが抱える孤独や秘密、不遇などを6シーズンかけてじっくり描いてきた。登場人物それぞれの去就が気になる巧みな作りもあり、背景を理解していないと面白味は半減する。何人かの不遇はシリーズ中に解決しファンをホッとさせつつ、積み残し案件はあり、本作でも何人かに幸せが訪れる仕掛けだ。

脚本は原案者でもあるジュリアン・フェロウズ、監督はドラマと同じサイモン・カーティスなので、作品のトーンにブレはない。本作は1928年、クローリー家の主、ロバート(ヒュー・ボネヴィル)の母である伯爵未亡人のバイオレット(マギー・スミス)が突然、フランスの別荘の相続を受けたと家族に告げるシーンから始まる。バイオレットはその別荘を曽孫娘のシビー、ロバートの三女・故シビルとトム・ブランソン(アレン・リーチ)の若い娘に遺贈すると宣言。早速、相続のためにフランスに向かうクローリー家の人々と使用人たち。到着してみると、別荘の持ち主である侯爵の妻(ナタリー・バイ)はこの相続に納得がいかないと伝えるのだった。

ダウントンに残ったロバートの長女で実質的当主、メアリー(ミシェル・ドッカリー)は、邸宅の維持にかかる膨大な費用に頭を悩ませていた。そんな中、邸宅で映画を撮りたいとの依頼があり、使用料を修繕費に充てようと承諾する。あっと言う間に撮影隊が邸宅に到着して、使用人たちは邸宅の華やかな変化に色めき立つ。

南フランスの別荘といつもの邸宅での映画撮影という場面転換が効果的で、いくつかのトラブルやロマンスも生まれ、最後まで飽きさせない。英国のベテラン陣による手堅い演技と、多くの登場人物がいながらも手際の良い演出手腕に成功の秘訣があるのだろう。古い時代に固執する辛口な登場人物も、甘くなりがちなドラマを引き締めている。

ただ、陽光降り注ぐ南フランスで優雅な時間を過ごす貴族の姿や、映画撮影のために使用人たちに訪れた幸運など、やや過剰とも言える観客サービスには辟易。ドラマにリアリティーを求める人には不向きかもしれない。同じ貴族と使用人を題材とする作品でも、1939年製作のジャン・ルノワール監督による「ゲームの規則」は、相容れない規則を持つふたつの世界と人間社会の構造を深く見つめた傑作である。

つまり本作は、極甘とわかって食べる豪華なケーキみたいなもの、かもしれない。

Downton Abbey: A New Era
邦題「ダウントン・アビー:ア・ニュー・エラ」

上映時間:2時間5分

写真クレジット:Focus Features

シアトルではシネコンなどで上映中。

土井 ゆみ
映画ライター。2013年にハワイに移住。映画館が2つしかない田舎暮らしなので、映画はオンライン視聴が多く、ありがたいような、寂しいような心境。写生グループに参加し、うねる波や大きな空と雲、雄大な山をスケッチする日々にハワイの醍醐味を味わっている。