注目の新作ムービー
圧倒的な造形美、映像美で描く壮大なSFファンタジー
Dune
(邦題「DUNE/デューン 砂の惑星」)
1965年に米国の作家、フランク・ハーバートが書いたSF大河小説の映画化であり、原作はその後のSFファンタジー映画に多大な影響を与えたと言われる。今年、最も公開が待ち望まれていたSF大作で、その期待を裏切らない壮大な物語世界と圧倒的な造形美、映像美にすっかり魅了された。
時は10191年、海の惑星を管理するレト・アトレイデス公爵(オスカー・アイザック)は、宇宙帝国の皇帝の命によって、砂漠の惑星アラキスの管理権を受け入れる。アラキスは「メランジ」と呼ばれる、寿命を伸ばし、人間の惑星間旅行を可能にする希少なスパイスの唯一の採取場で、アトレイデス家の宿敵であるハルコンネン家が採掘権を持っていた。この委譲で対立が激化することは不可避であり、皇帝の命令は陰謀であることを知りつつも、アトレイデス家はアラキスへ向かう。
同じ頃、レトの息子であるポール(ティモシー・シャラメ)は、青い目をした謎の女が何度も出てくるビジョンを見続けていた。母のレディ・ジェシカ(レベッカ・ファーガソン)は、高度な肉体的・精神的能力を持つ女性だけの宗教結社、ベネ・ゲセリットのメンバー。ポールにもその力が備わっており、母から能力の訓練を受け、同時にレトの補佐官、ガーニイ・ハレック(ジョシュ・ブローリン)やダンカン・アイダホ(ジェイソン・モモア)などに、父の後継者となるべき武術の訓練を受けていた。
レトはハルコンネン家を嫌うアラキスの先住民、フレメンの首長であるスティルガー(ハビエル・バルデム)と手を結んで、皇帝の陰謀に立ち向かおうとするが、ハルコンネン家の急襲を受けアトレイデス家は四散。ポールとジェシカはフレメンと合流し、ポールはそこでビジョンに登場した女、チャニ(ゼンデイヤ)と出会う。エンディングでは、ビジョンの意味を通してポールが宇宙の命運を握る救世主であることが予感される。
ここまでが駆け足でまとめた前編のあらすじ。物語は始まったばかりの感があり、後編への期待が湧いてくるが、背景はかなり複雑で登場人物も多く、原作を全く知らないで観るとちょっと戸惑うかもしれない。だが「スター・ウォーズ」のファンなら、多くの共通点を見つけることができるだろう。事実、ジョージ・ルーカスは脚本を書く時、この原作小説をかなり読み込んだらしい。本作の砂丘に現れる巨大な砂虫は、「風の谷のナウシカ」を想起する人もいるかもしれない。筆者はさまざまな立場の登場人物を配した「もののけ姫」を思い出した。
そんなSFファンタジーの生みの親とも言うべき原作小説は、あまりの壮大さと先見性で映画化は難しいとされ、1984年のデビッド・リンチ監督の同名映画は本人が失敗作と公言しているほどだ。確かに多くの登場人物が交錯し、ポールの母が属する女性集団のベネ・ゲセリットが宇宙の未来をコントロールすることを目指している様子などがチラリと描かれ、興味津々。娯楽性の強い「スター・ウォーズ」などと比べて、かなり複雑で重厚な物語構造になっている。
監督は「メッセージ」、「ブレードランナー 2049」と独特な世界観を持つ優れたSF作品を撮ってきたドゥニ・ヴィルヌーヴ。原作小説ファンの彼にしか撮れなかった高い完成度を持つ映画作品と言える。主役のポールを演じたシャラメは、少年のようなしなやかさと美しさを兼ね備えたプリンス役にぴったり。後編も楽しみだが、ひょっとすると「スター・ウォーズ」に匹敵するシリーズになるのではないか。そんなワクワクする気持ちにさせてくれる作品だ。
Dune
邦題「DUNE/デューン 砂の惑星」
上映時間:2時間35分
写真クレジット:Warner Bros. Pictures
シアトルではシネコンなどで2D、3D、4DX、IMAX、RPXの上映システムで公開中。