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In the Heights「イン・ザ・ハイツ」 〜注目の新作ムービー

注目の新作ムービー

ラティーノの夢と体験を高らかに歌い上げる

In the Heights
(邦題「イン・ザ・ハイツ」)

マンハッタンの北部、ワシントン・ハイツを舞台にしたミュージカルの映画化だ。2005年の初演に始まり、2008年からのブロードウェイ上演以降は世界中で大ヒットを続け、トニー賞4冠、グラミー賞最優秀ミュージカルアルバム賞も受賞。原作は「ハミルトン」の大ヒットで知られるリン=マニュエル・ミランダのデビュー作である。

ハイツで生きるラティーノの夢と恋、失望と挫折、差別体験などを、サルサ、メレンゲ、ボレロ、フラメンコなどのラテンのリズムにヒップポップを融合させた独自のミュージカル・スタイルで聴かせてくれる。加えて、ダンス映画「ステップ・アップ」シリーズで実力を磨いてきたジョン・M・チュウ監督によるカラフルでスピード感のあるダンス・シーンなど、見応えはたっぷりだった。

主人公は町の食料品店を営むウスナビ(アンソニー・ラモス)と、タクシー会社で配送係として働くベニー(コーリー・ホーキンズ)、美容サロンに勤めるヴァネッサ(メリッサ・バレラ)、そしてハイツの希望の星、スタンフォード大学に入ったニーナ(レスリー・グレース)の4人。

ある日、浮かない顔でニーナがハイツに里帰りをする。恋人のベニーは心配しつつも彼女が帰ってきたことがうれしい。だが、ニーナに大きな夢を託した父のケヴィン(ジミー・スミッツ)は、彼女を認めない。一方、ウスナビはハリケーン被害を受けたドミニカに帰ることを決めたものの、ヴァネッサのことが気になって仕方がない。ヴァネッサはファッションデザイナーになることを夢見ているが、貧しくてダウンタウン進出が夢のまた夢だった。

実際のワシントン・ハイツは主にドミニカ出身者が占めるらしいが、本作ではプエルトリコ、メキシコ、キューバなどさまざまなラテン系バックグラウンドを持つ人々が登場。それぞれの夢が各国の伝統音楽に乗せて描かれていく。

本作はラティーノの排斥を狙ったトランプ政権の頃に製作され、昨年公開の予定がコロナ禍で1年延期となった経緯がある。ラティーノの存在を高らかに主張し、ラテン・カルチャーを謳歌する作品を世に送り出す意味は大きかったと思う。実に豊かで華やかだった。

だが、今観るとやや違った思いも浮かんできた。作中強調される家族とコミュニティーの大切さ、貧しくともコミュニティーでは歌って踊ってみんな仲良しという閉塞感、父親の夢を重圧と感じるできの良い娘の苦悩、そんな描かれ方にやや古めかしさを感じた。

そうした感想も、トランプ政権が過去のものとなった今だから言えることなのかもしれない。音楽の天才、ミランダが生み出した全く新しいミュージカルのスタイルを、舞台が観られなかったファンのひとりとして映画館で鑑賞できたことの幸運を思わずにはいられない。

In the Heights
邦題「イン・ザ・ハイツ」

上映時間:2時間23分

写真クレジット:ワーナー・ブラザース映画

シアトルではシネコンなどで上映中。

土井 ゆみ
映画ライター。2013年にハワイに移住。映画館が2つしかない田舎暮らしなので、映画はオンライン視聴が多く、ありがたいような、寂しいような心境。写生グループに参加し、うねる波や大きな空と雲、雄大な山をスケッチする日々にハワイの醍醐味を味わっている。