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カッコいいけど、史実をゆがめ過ぎ?
The Women King
観終わった時、本作に登場する女たちが本当に実在したのだろうか?という疑問が浮かんだ。あえて下調べをしないで観た感想なのだが、あまりにカッコ良かったため、にわかには信じられなかったのだ。
舞台は1823年、西アフリカのダホメ王国。勇猛果敢な女戦士軍団、アゴジエのナニスカ将軍(ヴィオラ・デイビス)を主人公とした物語である。ただし、ナニスカは架空の人物。
発端は、近隣のオヨ帝国が奴隷貿易のため、ダホメの女性たちを誘拐したことから始まる。ナニスカ率いるアゴジエは武力で彼女らを解放。以降、ダホメ王国とオヨ帝国の間に緊張が高まる。同じ頃、結婚を拒否したために父親によってアゴジエへ連れてこられた年若いナウィ(スソ・ムベドゥ)は、戦士の訓練を受け始めた。心優しい先輩女戦士に見守られて、メキメキと力を付けていく。
そして、ポルトガル語を話すヨーロッパの奴隷商人が上陸し、オヨ帝国のオバ・アデ将軍(ジミー・オドゥコヤ)と共に、ダホメ王国のゲゾ国王(ジョン・ボイエガ)に面会し、奴隷貿易を活発化しようと持ち掛ける。ナニスカは、奴隷貿易は非人道的なのでパームオイルの生産を貿易の中心にすべきだとゲゾ国王に忠言するのだが、アデ将軍は着々とダホメを攻撃する準備を進めていた。
やがて、オヨ軍対アゴジエの大合戦が始まり、女戦士の何人かはアデ将軍に捕まる。そんな彼女たちを解放しようとナニスカはひとり敵地に赴くのだった。
本作の見どころは57歳のデイビスの熱演だろう。かなり訓練したと思うが、刀を使った容赦のないアクションシーンを力強く演じ、同時に複雑な過去を持つ孤高の戦士としても説得力のある演技を見せていた。演技派で知られるデイビスは製作にも関わっており、本作への強い思い入れが伝わる。
また、監督のジーナ・プリンス=バイスウッドを始め、脚本、製作、撮影監督、衣装、美術、メイクに至るまで、ほとんどの部門のトップに女性が起用されていることでも画期的な映画として特筆したい。ハリウッドではこれまで、アフリカの女性を主人公にした映画自体がなかった。本作の持つ意味は大きいと言えるだろう。
とはいえ歴史を調べてみると、ダホメ王国はそもそも奴隷貿易によって富を得ており、アゴジエも協力的であったこと、女戦士が生まれた背景には男の多くが奴隷として売られてしまったことがある、などとわかってきた。そのため、ネット上ではボイコットを呼びかける声も多い。
本作は奴隷貿易と戦った女戦士たちの正義の戦いという勧善懲悪の物語になっているが、ちょっと史実をゆがめ過ぎという思いは否定できない。アクションシーンも見応えがあり、女戦士を演じた俳優たちも素晴らしく、娯楽映画としての完成度は高い。興行的にも成功している作品だが、アフリカの女戦士の映画なら、大ヒットした「ブラック・パンサー」のような架空の物語でも良かったのでは、という考えも頭をよぎってしまった。
The Women King
上映時間:2時間15分
写真クレジット:Sony Pictures Releasing、
TriStar Pictures
シアトルではシネコンなどで上映中。