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笑えない近未来図
Mickey 17
(邦題『ミッキー17』)
6年前、『パラサイト』でアカデミー賞作品賞等を受賞した韓国のポン・ジュノ監督の最新作。近未来を舞台に政治と社会への痛烈な批評が込められたSFブラックコメディーである。エドワード・アシュトンの小説『ミッキー7』の原作に、監督が自ら脚本を手がけたハリウッド映画だ。
時は2054年、何をやってもうまくいかない青年ミッキー(ロバート・パティンソン)は、借金取りから逃れるため、親友のティモ(スティーブン・ユァン)と共に惑星移住計画の宇宙船に乗り込む。ティモはパイロットに選ばれるが、ミッキーが与えられたのは「使い捨てワーカー」としての仕事だった。地球で禁止されているプリンター技術を使い、死んでも記憶を引き継ぎながら何度も再生される「消耗品」として契約を結び、危険な任務のたびに死と再生を繰り返すことになる。それでも、彼を愛してくれる警備員のナシャ(ナオミ・アッキー)とそれなりにハッピーに暮らしていた。ところが、ある日、危険な探索の事故で死亡したはずの17番目のミッキーが宇宙船に生還。しかし、そこにはすでにミッキー18がいた。2体のクローンを認めない宇宙船の規則の下、2人のミッキーの命をかけた戦いが始まる。
ここまではトントンと分かりやすく話は進んでいくが、2人のミッキーの存在に気づいた独裁的な船長ケネス・マーシャル(マーク・ラファロ)と彼を操る妻イルファ(トニ・コレット)が登場して、物語がやや混迷、迷走していく。どちらか一方を排除しようとケネスらは動き出し、ナシャは2人とも助けよう奮闘する。一方、宇宙船内で発見された惑星生物クリーパーの子どもに危害を加えたために、クリーパーの大群が宇宙船を取り囲む事態に。物語はSFアクション風に大きく展開していく。しかし、クローン問題という本作のコアである2人のミッキーの行方が後半でややかすんでしまい、から騒ぎ感が否めなかった。
それにしても体の部位を再生できる「ヒューマン・プリンター」が現実に登場しつつある今、この近未来図は決して笑えない。チューブから裸のミッキーが生まれ出てくるシーンは、まるでソーセージが押し出させるような異様さで強く記憶に刻まれた。危険な仕事はクローンまかせ、なんでもテックで解決する世界が本当に明るい未来なのか? ジュノ監督の問いかけはそこにあるのだろう。ただ、独裁的なケネスの暴走を見ていると、どこか現実の社会と重なるように感じられるのも事実だ。フィクションのはずの物語が、妙にリアルに思えてしまうのは、私だけではないだろう。