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殻を破ったのは誰?
No Hard Feelings
ジェニファー・ローレンス主演のR指定コメディーという触れ込み。近年、話題作やヒット作がなかったローレンスが、「捨て身でお下品な役にチャレンジ?」と気になったが、なかなか良い話だった。
観光地で育った32歳の主人公、マディ(ローレンス)は、バーテンダー兼ウーバーのドライバー。ところが、税金未納で車を差し押さえられて窮地に陥る。そんな中、クレイグスリストの求人欄で見つけたのは、裕福な夫婦による広告。気が弱く引きこもりがちの19歳の息子、パーシィ(アンドリュー・バース・フェルドマン)の殻を破るのに成功したら、高級車を進呈というものだ。これに飛び付いたマディは、「殻を破るってことは要するにセックスをして欲しいってことですね」と親の希望を確認し、早速行動に。モテモテのマディは、男を陥落させるなんてお手のもの。セクシーなミニドレスでパーシィの前に現れ、グイグイと押しまくる。警戒心の強いパーシィの抵抗に手こずるも、マディの奮闘ぶりをセクシーかつ盛大に描いていく。
年上の女が年下の男に性の手ほどき、という映画はこれまでもたくさんあって、多くは男の成長が焦点に。だが本作は、成長が必要だったのはマディも同じだったという、もうひとつの物語がコミカルな展開の裏に隠されている。
自信満々、開けっぴろげで怖いもの知らず、ゲラゲラと大声で笑って困難を吹き飛ばしてきたマディは、ローレンスのイメージに重なるが、彼女にも屈託はあった。大切に守ってきた亡き母の家、その税金が払えず、この依頼を受けたマディ。なぜ、母の家がそれほど大事なのか。パーシィとの付き合いを通して、強気で生きてきたマディも、何かにとらわれていたことに気付く。壊せない殻は彼女にもあったのだ。
それにしても、ローレンスが夜のビーチで格闘する場面では度肝を抜かれた。アカデミー賞受賞女優の看板など何でもないのだろう。露骨に性的な台詞を吐き、大暴れする汚れ役を演じても、全く傷付くことのないローレンスの存在感。人気の秘密は、この類まれなる個性にある。
批評家からは、年上の女が年下の男を性的にグルーミングすることを肯定しているとの批判も出た本作。社会的強者による性的虐待が隠されてきた歴史と、被害者の背負う傷について検証が始まった現在を反映した、当然の指摘だと思う。しかも、親がグルーミングを依頼したとは、ねじれ具合もはなはだしい。筆者はグルーミングを描いた作品とは捉えなかったが、確かにこのような設定は男女の性役割の幻想を上塗りする側面があるとも考える。
No Hard Feelings
写真クレジット:Sony Pictures Releasing
上映時間:1時間43分
シアトル周辺ではシネコンなどで上映中。