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映画界の巨匠によるパーソナルな作品
The Fabelmans
邦題「フェイブルマンズ」
スティーブン・スピルバーグ監督の映画を観たことのない人っているだろうか。彼の名前を知らなくても、「ジョーズ」、「E.T.」、「インディ・ジョーンズ」や「ジュラシック・パーク」の人気シリーズ、そして「シンドラーのリスト」、「リンカーン」など、きっと1本くらいは観ているに違いない。冒険ものからSF大作、歴史ドラマまで実にさまざまなジャンルの映画を世に送り出し、大ヒットを飛ばし続けてきた。2018年には総興行収入が100億ドルを超えた初めての映画監督となった。まさにアメリカ映画界が産んだ巨星。そんなスピルバーグが、映画に魅せられた自身の過去を描いているのが本作だ。
主人公、サミー・フェイブルマン(ガブリエル・ラベル)は、5歳で初めて観た映画に強い衝撃を受ける。その列車脱線の場面を再現しようと、自分の鉄道模型を使って何度も脱線させるサミー。母(ミシェル・ウィリアムズ)は父の8ミリカメラを渡し、撮影すれば何度も観られることを教える。
カメラを手にしたサミーは動画撮影に魅了される。小遣いを貯めてはフィルムを買い、妹たちを出演させて8ミリ映画を撮る日々。そんなサミーをコンサートピアニストの母は応援し、コンピューター技師の父(ポール・ダノ)は映画なんかにかまけていないで勉強に励むよう忠告するのだった。
両親は経済的に恵まれた仲の良い夫婦に見えた。しかしサミーは、ティーンになった頃に母の変化に気付いてしまう。最大の理解者である母の裏切りに失望するが、その試練を乗り越えていくしかなかった。
ボーイスカウト仲間を集めて西部劇を撮影するサミーの映画への没頭ぶりに、才能の開花とその後の活躍が見て取れる。ユダヤ人差別を受けた高校時代なども描かれるが、本作は両親との関係の経緯を振り返ることに重点を置いていたように思う。明るく天真爛漫な母と、勤勉で有能な優しい父。両親それぞれの美点を受け継ぎ、大きな夢を抱くサミーにとって、両親の離婚は人生最大の打撃だったに違いない。そして、それを76歳の今になって映像化した監督の真意はどこにあったのだろうか?
初期の作品、「未知との遭遇」や「E.T.」では、父不在の母子家庭の寂しさが描かれていた。一方、本作では親の離婚を受け止めざるを得なかった少年の複雑な思いが前面に押し出されている。映画にのめり込むきっかけを作ってくれた母の、彼女なりの選択を理解できるまでの境地に達したことで生まれたのが本作ではないだろうか。
あのスピルバーグが、こんなパーソナルな映画を作ったことに驚いた。そして、初めて「E.T.」を観た時の感動を思い出した。あれから40年、たくさんのスピルバーグ作品を観続け、今になって家族の打ち明け話を聞かせてもらったような気がする。大監督だが、映画好きにとっては近くにいる友人を思わせる存在である。