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2022年のバットマンは?
THE BATMAN
(邦題「THE BATMAN-ザ・バットマン-」)
バットマン映画は、これまでに何作あっただろう。1966年に最初の長編映画が作られて以来、80年代から始まったティム・バートン版2作、90年代のジョエル・シュマッカー版2作、2000年代のクリストファー・ノーラン版3部作、2010年代はDCエクステンディッド・ユニバース版が2作あり、さらにはレゴ版も2作と、数えながら息切れしそう。根強い人気を再確認した。
筆者の推しはノーラン版「ダークナイト」(2008年)。素晴らしい出来栄えだったので、これで打ち止め、この作品を超えるなんてあり得ないだろうとタカをくくって本作を見た。ところがところが、である。「このバットマンも良し」という感想を抱いてしまった。油断ではなく予断大敵だ。大ヒットした楽曲をさまざまな音楽家たちがカバーすることがある。それと同じように、本作もまた、他のバットマン映画とは違ったリアルでダークな音色を奏でる、上出来のミステリーに仕上がっていた。
舞台は、悪がはびこるゴッサムシティ。何者かに両親を殺された若き大富豪のブルース・ウェイン(ロバート・パティンソン)は、バットマンに変身し復讐(ふくしゅう)を誓う。街の有力者が次々に殺され、現場には犯人のリドラー(ポール・ダノ)からバットマン宛ての「なぞなぞ」が残される。だが、リドラーの正体は不明。事件に巻き込まれていくバットマンは、彼をサポートするゴードン警部補(ジェフリー・ライト)と共に解決に乗り出す。その過程で、シリーズおなじみのキャットウーマン(ゾーイ・クラヴィッツ)や裏社会の大ボス、ファルコーネ(ジョン・タトゥーロ)の右腕となるペンギン(コリン・ファレル)などと絡んでいく。
本作の面白さは多々あるのだが、まずはブルースの人物像。他作品のブルースは、美女と登場する金持ちのプレイボーイという設定だが、本作での彼は若く禁欲的でバットマンとしての修行も足りない。復讐心にとらわれた若者のストイックさが際立ち、フィルムノワール的な孤独感が漂って魅力的だった。脚本/監督のマット・リーヴスはパティンソンを念頭に脚本を書いたとのことで、実に適役。主題曲に使われたニルヴァーナの「Something In The Way」も効果的に本作のムードを表していた。
また、キャットウーマンに始まりリドラーまでが他作品のような奇抜な衣装ではない。現実的な姿で登場することで、物語に「連続殺人犯を追う探偵もの」という様相を持たせることに成功している。最後に手繰り寄せた犯人の激しい怒りにも、驚くほどのリアリティーがあった。
これぞ、2022年のバットマンではないだろうか。コロナ禍の閉塞の中、ロシアとウクライナの情勢もあり、さらに先行きが見えない。そんな現実を生きる私たちにとって、この暗く、どこか幼いスーパーヒーロー像はしっくりくるし、悪くなかった。
THE BATMAN
邦題「THE BATMAN-ザ・バットマン-」
上映時間:2時間56分
写真クレジット:Warner Bros. Pictures
シアトルではシネコンなどで上映中。