注目の新作ムービー
人種、ジェンダーの多様性、女性のエンパワーメントが際立つ
The Matrix Resurrections
(邦題「マトリックス レザレクションズ」)
2003年に3作目が上映された「マトリックス」シリーズが18年ぶりに帰ってきた。本シリーズは「バレットタイム」と呼ばれる最先端のアクションシーンや「Free Your Mind」などのメッセージと共に世界中に熱狂的なファンを生んだSFの超人気作。最新作では、3作目で死んだはずの主人公、ネオ(キアヌ・リーブス)とトリニティー(キャリー=アン・モス)の復活の物語が描かれる。
時はネオがマシンワールドで命を落としてから60年後。人間たちはいまだに機械の奴隷としてポッドの中で眠り続け、マトリックスと呼ばれる仮想現実の中で夢を見続けていた。だが、荒廃し切った現実世界で地下生活をし続ける人間たちも存在し、そんな世界に生きるバッグス(ジェシカ・ヘンウィック)とその仲間たちは、ネオが生きているという伝説を信じて、マトリックスへの侵入を続けていた。
同じ頃、トーマス・A・アンダーソン(リーブス)は「マトリックス」というゲームのクリエーターとして大成功。ただ奇妙な夢に悩まされ、精神科アナリスト(ニール・パトリック・ハリス)のセッションを受け、青いピルを飲み続けていた。ある日、カフェでティファニー(アン・モス)と名乗る女性を見かけて既視感と親近感を覚え、彼女もまた何かを感じている様子だった。
ついにアンダーソンを見つけたバッグスらと変貌を遂げたモーフィアス(ヤーヤ・アブドゥル=マティーン2世)は、彼に赤いピルか青いピルか選択を迫り、アンダーソンはネオとして現実世界に戻ることを選ぶ。そして、ポッドから解放される過程で隣のポッドに眠っているトリニティーを見た彼は、どうしても彼女を解放したいとバッグスたちに懇願するのだった。
後半は夫と子ども2人がいるトリニティーがどのように解放されていくかを焦点に物語が展開し、ネオらを排除しようとするエージェントらとの激しいアクションも見られる。
マインドコントロールに関する新たな指摘や分析、シリーズおなじみのど派手なアクションを期待しているファンは、やや失望するかもしれない。しかし、本作は確実に進化していた。3作目終了後にトランス女性となった監督のラナ・ウォシャウスキーが、前3作で描き切れなかった多様なジェンダーのあり方を自在に描いている。
グループのキャプテンでネオをガイドし続けるバッグス、地下世界を統率するナイオビ(ジェイダ・ピンケット・スミス)、ネオをポッドから救うサティー(プリヤンカー・チョープラー・ジョナス)と、主要な場面で活躍するのは女性もしくはノンバイナリー(第3の性、自身の性認識が男女のどちらにも当てはまらない人)、しかも非白人だ。近年のSF映画で女性が活躍するのは珍しくはないが、後半のトリニティーの変貌ぶりは予想を超えていた。反面、ネオたちをマトリックスに縛り付けようとするアナリストによる女性を蔑視した発言の数々に、マトリックスとの戦いの意味が明確に提示されている。
ウォシャウスキー監督が本作で見せるのは、女か男かという固定した二者択一(バイナリー)のジェンダー概念が消えてしまった世界、ジェンダーの枠組みにとらわれない個の選択が尊重される世界、ではないだろか。映像の力は大きい。エンディングの解放感は、新型コロナで覆われたホリデー・シーズンの暗さを吹き飛ばす起爆力があった。
The Matrix Resurrections
邦題「マトリックス レザレクションズ」
上映時間:2時間28分
写真クレジット:Warner Bros. Pictures
シアトルではシネコンなどで上映中。また、HBO Maxで視聴可能。