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「WAVES/ウェイブス」今、家族を見つめる映画が面白い。

注目の新作ムービー

今、家族を見つめる映画が面白い。

Waves
邦題「WAVES/ウェイブス」

Little Woods
邦題「リトル・ウッズ」

Luce
邦題「ルース・エドガー」

前回、もっと骨太な映画が観たいと書いた。今回はストリーミング三昧の中で見応えのあった3作を紹介したい。気が付くとのっぴきならない事情を抱える家族のドラマばかり。この時期、偶然ではないのだろう。

1作目は「Waves(邦題:WAVES/ウェイブス)」。裕福な黒人家庭で父(スターリング・K・ブラウン)の期待を一身に受ける優秀な高校生(ケルビン・ハリソン・Jr)が起こした事件を描く前半と、事件後、崩壊の危機に陥っていく家族の中で、兄の事件の衝撃から抜け出せない妹(テイラー・ラッセル)の体験を描く後半の2部構成。対照的な前後半を通して、成功した黒人の父と息子の関係の難しさ、そして取り残された妹の孤独と再生に向かう姿を力強くかつ清々しく描いて秀逸だった。オリジナル脚本・監督はトレイ・エドワード・シュルツ。

2作目、「Little Woods(邦題:リトル・ウッズ)」は、貧困のどん底にいる黒人と白人の姉妹の物語だ。前出の「Waves」とは真逆となる。不法な手段で生計を立て、家族を支えてきた養女の姉(テッサ・トンプソン)と、トラブル続きのシングルマザーの妹(リリー・ジェームズ)。病身だった母の死後、家の立ち退きや妹の妊娠がふたりを追い詰めるが、果敢な姉は妹を引っ張ってトラブルに立ち向かう。固い絆で結ばれた姉妹の、危険をはらんだサバイバルの行方は……。スリリングな展開の中にも姉妹の互いへの愛と優しさが作品を支える秀作だ。オリジナル脚本・監督は30歳のニア・ダコスタで、彼女の初長編作品。

最後に紹介するのは「Luce(邦題:ルース・エドガー)」。7歳の頃、アフリカから裕福な白人家庭(ナオミ・ワッツ、ティム・ロス)の養子となった高校生(ケルビン・ハリソン・Jr)のルースが主人公だ。ルースはスポーツ万能、成績優秀、好感度抜群の若者に育ったが、無断で彼のロッカーを検査した担任の黒人女性教師(オクタヴィア・スペンサー)が許せない。

危険な花火の不法所持に気付いた教師は彼の母親に伝えるが、母親は取り合わず、真正面から息子を問いただすこともしない。彼の教師への怒りは収まらず、彼女を追い詰める不審な事件が次々と起きていく。状況は謎とダークさを増し、真実は見えない。果たしてルースは邪悪な知能犯なのか。優秀な息子を信じたい善意の親と、親の期待が重い息子、黒人の生きる厳しさを知る教師など、さまざまな立場の苦悩や欺まんが描かれる。極め付きの問題作と呼びたい。J・C・リーの舞台劇を映画化した作品で、監督・脚本はジュリアス・オナー。

新型コロナウイルス感染予防のために家族と何週間も家で過ごすことになり、普段見えないものも見えてくるのではないだろうか。今、家族のドラマが面白いのは、そのためだろう。3作品を比べると、裕福な家庭ほど豊かさに隠れて見えないものが多かった。

仲の良い家族像、理解ある親像、揺るぎない父権が崩れていくのもこういう時なのかもしれない。厳しさもあるが、互いの真の姿に触れる好機だと思えてならない。

Waves
邦題「WAVES/ウェイブス」

配給:A24

再生時間:2時間15分

YouTube、Amazon、Vudu、Google Playなどでストリーミング可。


Little Woods
邦題「リトル・ウッズ」

配給:Neon

再生時間:1時間43分

YouTube、Amazon、Vudu、Google Playなどでストリーミング可。


Luce
邦題「ルース・エドガー」

配給:Neon

再生時間:1時間49分

YouTube、Amazon、Vudu、Google Playなどでストリーミング可。

土井 ゆみ
映画ライター。2013年にハワイに移住。映画館が2つしかない田舎暮らしなので、映画はオンライン視聴が多く、ありがたいような、寂しいような心境。写生グループに参加し、うねる波や大きな空と雲、雄大な山をスケッチする日々にハワイの醍醐味を味わっている。