ライト・ヘビー級のチャンピオン、ビリー・ホープ(ジェイク・ジレンホール)の盛衰の物語。
タイトルを防衛し、彼を支える美しい妻モーリン(レイチェル・マックアダムス)と一人娘レイラと豪邸に暮らすビリーは、成功の頂点にいた。しかし、あるパーティーで新進ボクサーの挑発を受けて乱闘となり、その騒ぎの中でモーリンが銃弾を受けて死亡。失意のどん底に落ちたビリーは酒浸りの自暴自棄となり、狡猾なマネージャー (50セント)からも見放され、破産へ。レイラは児童保護施設に預けられ、文無しになったビリーは、トレーナーのティック(フォレスト・ウィテカー)のジムを訪ねるのだった。
ここから先は予想通り。頂点からどん底へ、そしてまた頂点を目指す……。『ロッキー』などで語り尽くされたボクシングものの王道と呼べるストーリー展開で、やや拍子抜けしてしまった。なぜなら、ジレンホールは作品選びがうまいからだ。去年の『ナイトクローラー』に始まり『ミッション: 8ミニッツ』『ゾディアック』など、犯罪もの、心理サスペンス、SFまで意欲的な話題作に多く主演、本作にもクリシェ(月並み)以上のドラマを期待していた。
とはいえ、渾身の力を込めてボクサーを演じたジレンホールの演技は特筆に価する。前作『ナイトクローラー』で激やせの後、腹筋くっきりの見事なボクサー体型に体を作り、パンチングボールからフットワークまで敏捷なボクサーの動きを見せ、主人公の物語よりもジレンホールの役に傾ける情熱に打たれてしまった。
最近、『Champs』という米国のボクシング業界のドキュメンタリー映画を見たが、マイク・タイソンなどこの業界にはビリーのような盛衰の物語が後を絶たない。この傾向は、野球やフットボールなど他のプロスポーツと比べても顕著で、プロモーターが強大な力を持ち、選手が業界によって保護されていないことに理由があるらしい。選手の9割はかつかつの生活、反面1試合で何百億ドルという金が動く落差。テニスなどと比べて貧しい階層の出身者が多いのも特徴で、ハングリーなボクサーの盛衰の物語は現実であり、クリシェと言われようと繰り返し映画として描かれていくに違いない。
監督は『トレーニングデイ』などハードなアクション映画を得意とするアントワーン・フークア。ラストのファイトでビリーがカメラに向けてパンチを打つシーンが秀逸だ。脚本はTVドラマ『サン・オブ・アナーキー』の脚本や監督を担当してきたカート・サッター。
上映時間:2時間3分。シアトルはシネコン等で上映中。
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