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Think Different なドキュメンタリー『Steve Jobs : The Man in the Machine』

3 今やiPhoneに依存し、手放せなくなってしまっている人も多いのではないだろうか。今この原稿をiMacで書いている筆者もアップル依存度の高い人間の一人。生まれて初めて手にしたPCはMacintosh 512K。親しみやすいアイコンとマウスを使って絵が描けることに感動、以来アップル以外のPCを使ったことがない。

本作は、そんな私たちとこの機械との関係について考えさせてくれるドキュメンタリー映画だ。フォーカスはアップルの創業者、天才的起業家スティーブ・ジョブズ。アップルカルトと呼ばれる献身的利用者を惹きつけた彼のカリスマ性と、反面の独善性や冷酷さなどについては、すでに多くの本や映画、ドキュメンタリーなどで知られている。本作は語り尽くされた感のある彼の物語の二度塗りを極力避けながら、ジョブズの人間的暗部、起業からの足跡、そして彼の生み出した製品と企業倫理の関係を追って実に興味深いものがあった。

監督はアレックス・ギブニー。アフガニスタンのタクシー運転手の拷問死を扱った『Taxi to the Dark Side(邦題:「闇」へ)』でアカデミー賞長編ドキュメンタリー映画賞を受賞したベテランの社会派ドキュメタリー映画監督だ。本作では山崎裕が撮影監督を担当し、ジョブズが愛した日本の風景が美しい映像として何度も登場し目を癒してくれる。

ジョブズは復帰後の97年、移民労働者の組合を作ったシーザー・チャベスやキング牧師などを使った広告「Think Different」で企業イメージを決定づけ、アップル社は大躍進を続ける。だが、近年になってiPhoneを作る中国の工場での劣悪な労働状態や労働者の頻繁な自殺が報道された。ジョブズは禅に興味を持ち何度も訪日、その影響は彼の製品の持つシンプルなデザインに反映されているが、鏡のように美しいiPhoneの画面を実現するために使われる毒性のある薬品とそれを扱う労働者たち。これは「Think Different」のキャンペーン・イメージと相反するものだ。

他国の若者の奴隷的労働の上に成り立つ私たちの手の平の自由iPhone。そしてiPhoneのリングトーンに無意識に反応して依存度を高める利用者。私たちはiPhoneやiPadで信じられないほどの自由を得たが、その反面どんな自由を奪われてきたのだろう? その問いかけこそ「Think Different」なのではないだろうか。

ジョブズの娘を産んだが長年認知を拒否された女性が「彼は人間と関係を作るのが難しい人だった」とコメントしていた。彼には人と自分を繋げるものとして機械が必要だったのかもしれない。目の前にいる人との会話をせず、iPhoneを見続ける人々を大量に生み出したジョブズ、彼ら彼女らこそジョブズの子どもたちに見えてくる。

上映時間:2時間7分。シアトルはSeven Gables Theatreで上映中。

[新作ムービー]

土井 ゆみ
映画ライター。2013年にハワイに移住。映画館が2つしかない田舎暮らしなので、映画はオンライン視聴が多く、ありがたいような、寂しいような心境。写生グループに参加し、うねる波や大きな空と雲、雄大な山をスケッチする日々にハワイの醍醐味を味わっている。