新型コロナウイルス感染拡大による自粛期間中はお預けだった音楽イベント。ワクチンの普及と共にライブやフェスが再開されています。音楽業界の未来をつなぐように、思い切り楽しむ音楽ファンたちの姿がそこにありました。
取材・文:河野 光
※掲載の内容は2021年11月24日時点の情報です。
ジンジャー・ルート@ニューモス
ジミヘンの銅像もある、かつてグランジ・ロックが栄えたキャピトルヒルで愛され続けるライブハウスのひとつに、1992年創業のニューモスがある。パンデミック宣言以降、休業が続いたが、今年7月1日に再開。新型コロナのワクチン接種または陰性結果の証明提示、マスクの着用が100%義務化されている。
会場を訪れてみると、ドリンクの提供も行なわれ、テーブル席のある中2階からステージを見下ろす観客がパンデミック以前よりも若干多いように感じた。そのおかげで1階ではすし詰めになることもなく、安心してライブに集中できる。
この日の目当ては、カリフォルニア州出身のキャメロン・ルーさんの単独プロジェクト、ジンジャー・ルートだ。2017年から活動を開始し、自らの音楽を「アグレッシブ・エレベーター・ソウル」と形容する。8月20日にリリースしたEP、「シティー・スリッカー」の楽曲を中心とした、約1年半ぶりの国内ツアーにファンは大興奮! 大学で映像系の学科を専攻しながら音楽活動に励んだキャメロンさんは、ミュージック・ビデオの監督・出演やアルバムのジャケット・デザインを自ら手掛けるほか、マルチ・インストゥルメンタリストでもあるという多彩さ。
実は親日家で、日本語も勉強している。「ローレッタ」は、竹内まりやさんが自身のラジオ番組でおすすめとして流したこともある楽曲だが、それを日本語で歌ってウェブで披露したことも。なんとも親しみやすい存在だ。
オーストラリアのバンド、ミドル・キッズの前座としてステージに立つシアトル公演。しかし、バンド・グッズの売れ行きから見ても、ジンジャー・ルートのファンは多そうだ。キャメロンさんに加え、ツアーと一部楽曲にのみ参加するドラム担当のマット・カーニーさん、ベース担当のディラン・ホービスさんの3人そろった姿を拝めるのもライブだけ。これだけでも来たかいがある!
感染対策もあってかトークは少なめで、曲のテンポも少し早足で全8曲を駆け抜けたが、キャッチーで軽快なメロディーの中に、ベースがしっかりと軸を作るソウルフルなポップは健在。ボーカル兼キーボードのキャメロンさんの高音がさえる、期待通りのステージとなった。
Newmos
925 E. Pike St., Seattle, WA 98122
営業時間:4pm〜2am(翌日) ※イベントにより21歳以上
info@nuemos.com
www.neumos.com
フリーク・アウト・フェスティバル@バラード各所
シアトルの音楽レーベル、フリークアウト ・レコードが主催する音楽フェスが、11月11日から14日までの4日間、バラード内7カ所の会場で繰り広げられた。9年目を迎えた今年は70を超えるミュージシャンが参加し、各ステージを盛り上げた。
各日夕方5時半以降の開始。大きなスタジアムなどで行われるフェスと違い、全て徒歩圏内の会場に向かう途中で同志を見つけたり、普段は縁のない店舗に足を踏み入れて、慣れている風を装ったりと、ワクワクする体験の連続だ。
出演バンドの多さから、前知識ほぼゼロの状態でのステージ鑑賞。フェス2日目に筆者が訪れた会場は、ホテル・アルバトロスだ。ヘッド・ライナーはメキシコ出身のパンクロック・バンド、キャリオン・キッズ。パンクなんて生で聴くのは10年ぶり……と、少し身構えたが、2本のギターによる骨太なメロディーはポスト・パンク寄りで、非常に聴きやすい。上々の駆け出しだ。
次のバンドは、ニューヨークを拠点に活動するザ・ミステリー・ライツ。演奏は少々荒っぽいが、ディストーションを多用したサイケデリックなサウンドと、ボーカルのロックなパフォーマンスに、映像でしか見たことのない、60年代のロック・コンサートにタイムスリップしたような感覚になった。
フェス3日目には、普段は会員制イベント会場であるザ・サーモン・ベイ・イーグルス2階へ。ステージに登場したのは、シアトル出身の新ガールズ・バンド、ゼムだ。ホール全体がカラフルな映像で埋め尽くされ、どこかノスタルジックさを感じさせる演奏と相まって、幻想的な雰囲気に引き込まれるようだった。
その場にいないと感じられない楽器の放つバイブレーション、自分なりの方法で自由に音楽を楽しむ人々。家にこもって曲をダウンロードするのも便利だが、「音楽ってやっぱり最高!」と再確認。ライブはやはり必要不可欠な存在だ。