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『Rams』 (邦題『ひつじ村の兄弟』)

こういう映画をもっと観たい
『Rams』 (邦題『ひつじ村の兄弟』)

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©Cohen Media Group

「昔々、寒い国の小さな村に、羊を育てる兄弟が隣同士に暮らしておりました。二人は仲が悪く40年も口をきいていません。ある時、羊が疫病にかかり村全部の羊を殺すことになって、兄弟も先祖代々育ててきた大切な羊を殺すように言われます。ところが、二人はどうしても殺すができませんでした」
こんな紹介がしっくりする童話のようなドライコメディ。昨年のカンヌ映画祭でユニークな視点をもった作品に贈られる「ある視点部門」グランプリを獲 得した。

脚本・監督は、本作が長編劇映画2作目のグリームル・ハゥコーナルソン。アイスランド生まれだ。国柄と土地柄、人々の生活、意地っ張りで頑固な人々 の気質などをオフビートのユーモアと共に描き出し、アイスランド人にしか作れない映画を生み出した。不仲な兄弟グミーとキディを演じたシグルヅル・ シグルヨンソンとテオドル・ユーリウソンは共にアイスランドを代表する名優で、二人の素朴な風貌も眼福(編注:目に心地よいの意味)であった。

本作の舞台となる雪に覆われたアイスランド北部は、羊で生計を立てる牧場が大多数を占め、彼らにとって羊は重要な生活の糧だ。主人公二人は品評会で 優勝するほどの優良種を育てており、共に独身一人暮らしの二人にとって羊はプライドであり家族でもある。ところが、その愛する羊を殺処分せねばなら なくなって……というお話だが、実際に殺処分をした羊飼いの中にはそれがトラウマになって心を病んでしまう人もいるという。本作ではその深刻さをリ アルに描いており、後半の物語とハッとなる見事なエンディングへと繋げていく。

グミーが、雪の上で酔いつぶれたキディーをパワーショベルですくい上げ、病院へ運ぶシーンの大真面目な滑稽さなど、全編に絶妙な味わいが広がり、こ ういう映画をもっと観たいという思いを強くした。

上映時間:1時間33分。シアトルは19日からLandmark’s Seven Gablesで上映中。

 

[新作ムービー]

土井 ゆみ
映画ライター。2013年にハワイに移住。映画館が2つしかない田舎暮らしなので、映画はオンライン視聴が多く、ありがたいような、寂しいような心境。写生グループに参加し、うねる波や大きな空と雲、雄大な山をスケッチする日々にハワイの醍醐味を味わっている。