シニアがなんだ!カナダで再出発
在シアトル日本国総領事館に現地職員として39年間勤務した後に、2013年定年退職した武田 彰さんが綴るハッピー・シニアライフ。国境を超えるものの、シアトルに隣接する都市であるカナダのバンクーバーB.C.で過ごす海外リタイアメント生活を、お伝えしていきます。
思い出の映画
最近のアメリカ映画の派手な暴力シーンやえげつない言葉遣いに辟易し、劇場に行かなくなってずいぶん経つ。匂いにつられ、つい買ってしまうポップコーンを食べながら、自分の時間をコミットして観る私の映画生活は終わってしまったのか。
昔、私が育った田舎には古い映画館が1軒あった。人生初映画は11歳で観た「日本誕生」(1959年)。当時最新の特殊技術を駆使した八岐大蛇(ヤマタノオロチ)が出現し、とても興奮した。中学時代では、ジェームズ・ボンド第一作「007/ドクター・ノオ」(1962年、日本公開1963年)をよく覚えている。スポーツカーに乗って美女にモテモテの超クールなボンド役、故ショーン・コネリーの演技は、「奥さまは魔女」など米国TVドラマを観て育った私の欧米文化への憧れをさらに膨らませた。
「性」に目覚めた16歳の時に観た、今村昌平監督の「赤い殺意」(1964年)も忘れられない。夫の留守中に入った露口 茂演じる強盗に犯される妻を、春川ますみが成熟した女の色気を目いっぱい放って体現。東北の田舎社会を背景に、うす暗い画面がその生々しさを増す。この頃、成年映画目当てに京都に出かけ、切符売り場で年齢を聞かれてもじもじし、入れなかった思い出もある。
京都の大学進学後では、オードリー・ヘップバーンが盲目の人妻を演じたサスペンス作品「暗くなるまで待って」(1967年)が秀逸だった。ヘンリー・マンシーニの音楽が戦慄感に拍車をかける。「ポセイドン・アドベンチャー」(1972年)も良かった。キャプテンを演じたジーン・ハックマンの英雄的判断力を見て、こんなに頼りになる人間が果たして実在するのか、と喜ばしくも疑う。シェリー・ウィンターズ演じる脇役の決死のシーンには、「これぞ人道」と思わず声が出た。
ホラー趣向は「エクソシスト」(1973年)や「ジョーズ」(1975年)から、もうとまらなくなり、2004年から続く「ソウ」シリーズも全て観た。スプラッターと呼ばれるグロテスクな描写はこの「ソウ」辺りから始まったようだ。鉄の足かせをはめられ、監禁された者が、自分の足を切り取るしか生き延びる方法がないことを知る。嫌がる友人を無理やり引きずって一緒に映画館に来てもらった。
それにしても、スターは早く年を取る(自分のことは気が付かない)。ジュリア・ロバーツのように、「プリティ・ウーマン」(1990年)から「エリン・ブロコビッチ」(2000年)まで、主役として存在感を発揮し続ける女優もいる。日本では、三田佳子が最近のTVドラマ「凪のお暇」で貧しい老婆役を演じていてびっくりした。俳優に転じた元アイドル歌手も、東山紀之、木村拓哉らが頑張る。いつまでも美しいメリル・ストリープと吉永小百合、他界する直前まで仕事し続けた樹木希林、円熟した演技を見せる柄本 明、石坂浩二、田中裕子など、若くから知る俳優の活躍を見るのはうれしいものだ。