シニアがなんだ!カナダで再出発
在シアトル日本国総領事館に現地職員として39年間勤務した後に、2013年定年退職した武田 彰さんが綴るハッピー・シニアライフ。国境を超えるものの、シアトルに隣接する都市であるカナダのバンクーバーB.C.で過ごす海外リタイアメント生活を、お伝えしていきます。
バンクーバーのダウンタウンに住むということ
バンクーバーに移り住んで7年になる。かつてのシアトル、フィニーリッジの一軒家から環境はガラリと変わり、ガラス張りの高層住宅での生活。「こんなところに住みたかった」と、19階の窓から絶景を見下ろす感覚にウキウキした。昨年、裏通りを挟んだ同じような高層住宅に引っ越すも、階段で上り下りできるよう、今度は2階のユニットに。それでもリビングの大きな窓からは公園の景色が広がる。
バンクーバーのダウンタウンは、わが住居が入るビル同様の高層建築が多く建ち並ぶ。ニューヨークなどと違って、高層ビル間に低層建築が配され、空が広く見えるのが特徴だ。高層ビルを建てる場合、市とデベロッパーがパートナーになって、幼稚園や低所得者用住居ビルなどの建設も併せて計画するため、バランスの良い街並みを形成している。バンクーバーが世界一住みやすい街のひとつに挙げられるのは、このような市政も貢献しているのだろう。
わが家は正確に言うと、ダウンタウン南端に接するイエールタウンに位置する。1986年開催の万博跡地に当たり、古い倉庫街が再開発された人気のエリアだ。高層住宅群の狭間にオシャレな飲食店やショップがひしめく。シアトルで言えばキャピトルヒルを細長くした感じか。この界隈に公園が10カ所以上点在するのもありがたい。スカイトレイン・カナダラインの駅もあり、バンクーバー国際空港へ30分弱で到着する。
シアトルのダウンタウンはビジネス街だが、バンクーバーは高層ビルのほとんどが住宅用で、カフェやレストラン、雑貨店が何軒もある。わが住居前の通りには、歯科医院、フィットネス・ジム、フィジカル・セラピストや鍼灸師、カイロプラクターのいるクリニック、美容室などが並び、便利この上ない。エコ意識の高いスーパー、チョイシーズもわずか半ブロック先。少し歩けば大きな病院も見え、シニアには住みやすい環境だ。
日本食品はHマートでほとんど用が足りる。買い物のしやすさ、多彩な外食オプションは、わがリタイア生活に欠かせない。観光名所のスタンレー・パークに続く美しい遊歩道、シーウォールでの散歩が楽しめるのも、日々のエクササイズに好都合。ナイトクラブやバーなどが連なる歓楽街は、若い人の目には魅力的に映るだろうが、シニアは当然お呼びでない。自分も20歳の頃は、京都のディスコで朝4時まで踊っていたっけ。
ただ、ダウンタウン暮らしには難点もある。大病院に出入りする救急車のサイレンや車の騒音、都会ならではのドラッグやホームレス問題など。コロナ禍で経済事情が変わり、路上生活者が増える今、そうした人たちを横目に、ひょっとしたら明日はわが身かと、ふと心配になる。アフガニスタンなど政情が急変した国、地震やハリケーンが直撃した地域もある。それを考えると、わが身の幸運に罪の意識さえ感じてしまう。