在シアトル日本国総領事館に現地職員として39年間勤務した後に、2013年定年退職した武田 彰さんが綴るハッピー・シニアライフ。国境を超えるものの、シアトルに隣接する都市であるカナダのバンクーバーB.C.で過ごす海外リタイアメント生活を、お伝えしていきます。
フュージョン化が進むフランス料理
あまり冒険はしたくないので、同じレストランに通いがちだが、評判を聞いてたまにほかの店にも出かける。日仏フュージョンもそのひとつ。シアトルで40年ほど前、ダウンタウンにそんな店ができた。しかし、マーケットが熟していなかったのか、間もなく閉めた。近所のイエールタウンには、日本料理寄りだが、そうしたハイエンドのレストランが知る限り2 軒ある。
例年、地元誌でランキングに入るブルー・ウォーター・カフェは、職人がカウンターに立ち、刺し身、寿司のほか、マグロのたたきや牛刺しなどを作って出す。メニューには、淡水魚にワカメをあしらったもの、ギンダラの味噌グレーズと、フュージョン料理も並ぶ。同じく値は張るも人気のミナミは、コール・ハーバーに立地するミクの姉妹店。宮崎出身の日本人が 2008年に始めたレストラン・グループだ。「あぶり」の寿司にソースなどフランス料理の要素を盛り込んだ、当地の日仏フュージョンの先駆者的存在か。
新たなランドマーク、バンクーバー・ハウスの一角でベトナムとフランスのフュージョン料理を提供するリン・カフェでは、ベトナム料理の典型たる生春巻きやフォーもひと味違えて出される。ベトナムはフランスの統治下となった歴史を持つので、この組み合わせはさほど珍しくないのかも。
イエールタウンでは「ヴィエノワズリー」と総称されるクロワッサン系ベーカリーが続々登場。その経営は、韓国系、中華系、イラン系の出資によるものだ。以前よく通ったノース・バンクーバーのビズも、ウエストエンドに2 軒目を出した。スターバックスの跡地で1年前から営業するパルフェクト・カフェは、異なる文化背景が加わる新商品の数々にワクワクする。
トロント近郊にはカナダ初のパリス・バゲットがオープンしたとのこと。各地の出店も見込まれている。同フランチャイズは、フランス人から受け継いだコンセプトを韓国風にアレンジしてヒット。世界で4,000 店舗を展開する。どんな店? と調べたら、ヴィエノワズリーやケーキを客自らトレーに取るカジュアルさが売りだとか。日本のどのパン屋でも見られるシステムだ。この韓国の一大チェーンは、近々リンウッドのアルダーウッド・モールにやって来るとも聞く。それにしても韓食の世界進出が目覚ましい。
一方で、元フォ-シーズンズ・ホテルのシェフでフランス系移民の友人は、料理の国際化で本物の味が薄れていく、と嘆いている。パリもすっかり健康志向で、バターやクリームたっぷりのソースが嫌われているそう。本来のフランス料理を復活させようとする動きもあると言う。食の国際化は相互理解を育み、世界平和に結び付きそうなものだが、そう簡単には行かないのだろうか?