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老いて二度児(ふたたびちご)になる?

シニアがなんだ!カナダで再出発

在シアトル日本国総領事館に現地職員として39年間勤務した後に、2013年定年退職した武田 彰さんが綴るハッピー・シニアライフ。国境を超えるものの、シアトルに隣接する都市であるカナダのバンクーバーB.C.で過ごす海外リタイアメント生活を、お伝えしていきます。

老いて二度児ふたたびちご になる?

社交ダンス用靴袋には扇子飲み水靴ブラシなども入るバンクーバーには社交ダンス用品店が1軒しかなく同じものを持つダンサーは多い

「年を取ると子どもに戻る」、「老いては に返る」などと聞くが、自分でも周りの人に甘えたくなるときがある。子ども特有の生存本能(?)が再び強くなるのかもしれない。たとえば、店に入ると店員さんが付いてゆっくり説明してくれたり、バスや電車に乗ると若い人にさっと席を譲ってもらえたりするのに慣れた自分がいる。

先日、社交ダンスを再開したばかりの親しい友人(78歳、白人)が、ダンスを終えて私が靴を履き替えていると突然、「That’ s my shoe bag!」(それは僕の靴袋だよ!)と真顔で言う。冗談だと思って笑いながら受け流すと、「Are you trying to steal my shoe bag?」(僕の靴袋を盗むつもり?)と問い詰めてくる。それならと、中身をあらめてもらうが、依然として自分のだと信じている様子。彼の靴袋が見えたので「あそこにあるよ」と指摘すると、納得するまでに数秒かかって、やっと私に謝る。この8年来の友人とは食事を共にし、バケーション中は鍵を預かって植木の水やりに通う仲。私が盗むわけないのに。これも子どもに戻る例?

年を取ると以前できたことが徐々にできなくなり、不自由このうえない。靴下を履くにも、椅子に座って膝を曲げつつ足を手元に寄せてから「よいしょ」。絆創膏ばんそうこう の外包をはがせなくてイライラ。家電や組み立て家具の説明書を読むのも億劫おっくう 。出かけるときはあれこれ忘れないよう準備にグズグズで、いったん出てから数回戻ることも。足もだんだん重くなる。道路の水たまりなどはスイスイ跳んで進んだものだが、今は安全第一と回り道。運転が怖くなり、昼間でも他車や歩行者が飛び出してくるのではとハラハラ。雨の夜は恐怖でしかない。若い頃は高速道路をゆっくり走る年寄りドライバーを見下したものだが、今は遅い理由がわかる。

きにくい絆創膏の外包もよく見れば開き口が赤線で記されているのだが急いでいると気が付かない日本製であればもっと開きやすいのに
靴下を履くにもひと苦労で何をするにも時間がかかってしまう
最近の家具はほとんど組み立て式簡単に思えても注意深く手順に従わなければうまく出来上がらない

将来が明るい子どもと違い、老人はしぼんでいくばかりか。でも、ポジティブな面もある。74年生きた経験が積み重なって、運転では事故を起こさないよう注意深くなるし、新たな情報を得て未然に対処できることも増えた。引退して以前できなかった好きなことをする楽しい時間、と位置付けたい。

74歳の誕生日はバンクーバーから東へ車で40分ほどのサレーに立地する韓国系イタリアンのパスタティモでランチ店主兼シェフがイタリアで修業したとあって味は抜群韓国流の細やかな気遣いもうれしい

東海学園大学の奈倉道隆名誉教授は、「人間が人間らしく生きることに、より高い価値を見出すであろう今後の社会では人間性が充実する高齢期こそ人生の(余生ではなく)本生とみなされるであろう。老化のために機能の減退はみられるが、減少した細胞の機能を、残っている細胞が補おうと努力する傾向が、積極的な生き方をする人には現れる。過去に学んだ知識や経験を基にし、ものごとを理解したり総合的に判断するのに必要な結晶性知能は発達を続ける」と、高齢期の人生の充実について語る。そして「従来からの自己の価値を見失うことによって、さまざまな関係性の中で生きている自分を再発見するようになる」とも。人は支えて支えられ、生活をしていかなければならない。今のうちにせっせと周りの人を支えねばと思うこの頃である。

つては平気だった夜間のドライブいろんな感覚が弱ると同時に運転の怖さが頭にあるせいか近頃は躊ちゅうちょ躇するあと何年運転できるかな
ダウンタウンにあるセントポールズ病院のホリデーシーズン恒例イルミネーション

武田 彰
滋賀県生まれの団塊世代。京都産業大学卒業後日本を脱出。ヨーロッパで半年間過ごした後シアトルに。在シアトル日本国総領事館に現地職員として39年間勤務。政治経済や広報文化などの分野で活躍。ワシントン大学で英語文学士号、シアトル大学でESL教師の資格を取得。2013年10月定年退職。趣味はピックルボールと社交ダンス。