在シアトル日本国総領事館に現地職員として39年間勤務した後に、2013年定年退職した武田 彰さんが綴るハッピー・シニアライフ。国境を超えるものの、シアトルに隣接する都市であるカナダのバンクーバーB.C.で過ごす海外リタイアメント生活を、お伝えしていきます。
アラスカ・クルーズ
「キュナード・ラインのクイーン・エリザベスによるアラスカ10 泊クルーズがセール中」との情報を聞きつけ、仲間数十人で申し込むことに。わが家から近いコール・ハーバー発のクルーズは、乗下船の容易さと価格の手頃さで、何度でも行きたくなる。
今回、相棒ジェームズとシェアしたインサイド・ルームの最 安 値は、税・サービス料 込みでひとり1,372カナダドル。1日 3 回の食事、ミュージカル鑑賞などの娯楽に加え、午後のハイティー、スポーツ・ジム、ダンス・レッスン、スナック食べ放題も付いて1日140カナダドルほどと、極めて割安だ。酒に弱くなりドリンク代もかからず、Wi-Fi は停泊地近辺で携帯電話がつながるので購入しなくて良し。これは自宅で暮らすより安上がり?
キュナードは乗客第一の姿勢が顕著だ。レストランは白のテーブルクロスに生花が飾られ、ウエーターやソムリエは笑顔で応対。部屋の清掃は 1日2回と至れり尽くせり。船の揺れも感じない。毎夜楽しめるダンス・フロアも立派。料理は金縁の皿に少量ずつコース仕立てで運ばれ、全てが胃に入る。食後のアメリカーノで、もうほくほく気分。
ケチカンでは、たまたま相棒ジェームズが道を尋ねた 70 歳前後の白人女性のバンに乗せてもらい、目的地へ。彼女は旅行ガイドのボランティア経験を持ち、トーテムポールのいわれにも詳しい。あとからわかったのだが、韓国から養子を取っており、その親しみから韓国系移民のジェームズ一行に良くしてくれた? 素晴らしい「シニアの鑑」との出会いは本旅のハイライトであった。
停泊したのは、そのほかジュノー、スキャグウェイ、シトカ。スキャグウェイ発のホワイトパス&ユーコン鉄道の旅では、ゴールドラッシュ当時のルートと景色をたどる。最終寄港地、ビクトリアに入ると、もうバンクーバーに戻ったも同然。アラスカ・クルーズは氷河見物を売り物としているが、本クルーズでも2日を割いた。最初はヤクタット湾から奥に入ったハバード氷河。7日間のクルーズだと大抵ここだけだ。しかし、数日後にはグレーシャー・ベイ国立公園の入り江奥深くにあるマージェリー、ジョン・ホプキンス、ランプルー、リードの氷河も堪能。雄大な自然は見る者を圧倒する。
浮かれがちなクルーズ旅行だが、気の毒なのは重労働を担うスタッフ。聞くと、6 ~ 9カ月は船上での相部屋生活、休憩はあっても休日はないそう。その多くがフィリピンなどからの出稼ぎだ。皆が礼儀正しく、業務をきちんとこなす。
「のん気な乗客の姿に気が滅入らないか」とバツの悪さを仲間に伝えると、「われわれだって、つらい仕事も何十年もこなしてきたのだから、クルーズはご褒美!」と言う。いかにも観光客風のわが出で立ちが気になるなど、何をするにも「これでいいのか」と考えてしまうこの頃。