引っ越しは人生の洗い直し?
バンクーバーのダウンタウン近く、イェールタウンの住み慣れた旧居から、隣に建つコンドミニアムに移った。以前住んでいたのはコンドミニアム19階の1室+趣味など多目的に使えるちょっとした小部屋。非常時の階段がシニアにはきつい。南西向きで夏は暑く、訪問客が泊まる部屋もなかった。6年住んで不便が出てきたのが、この引っ越しの理由だ。売り物件をいくつか見た後、隣のコンドミニアムに手頃な値段で2ベッドルームの物件を見つけた。北西向きの涼しい2階でバスルームも2つある。
新居の契約成立はハワイ行きが1週間後に迫った11月末。急いで旧居を売るため、より良く見える演出をする「ステージング」をしようと、当面必要な物以外を貸し倉庫に預けることになり、慌てて荷造りを済ませた。売却前の新居購入は財政リスクが伴うが、同じ経験をした友人の紹介で雇ったエージェントを信頼して踏み切る。うわさ通り有能な30代前半、インド系2世の彼の目算通り、旧居は販売開始から3日で売れた。
冬季五輪を機に値上がりし続けたバンクーバーの住宅市場は、2016年から次々に導入された外国人や空き物件所有者に対する州・市政府の課税が功を奏したか下落に転じている。しかも、ホリデー・シーズンは閑散期。果たして首尾良く売れるのかと心配されたものの、ふたを開けてみれば少なくともダウンタウン周辺のコンドミニアム物件に限っては需要が高いことがわかった。美しいバンクーバーにほれ、シアトルに住みながらも2005年に思い切って買った旧居。当時はここに自分が引っ越すとは思わなかったが、これが資金となって新たなコンドミニアムが手に入った。
年が明けて引っ越し。すぐ隣とはいえ普通の引っ越しと変わらず、段ボール箱約100個もの大荷物。カナダ移住の際は身軽であったが、こんなに物が増えるとは……。
悔しいことに昔ほど足腰が言うことを聞いてくれず、引っ越し作業は思いのほかこたえた。新居に移ってからはイケアやホームデポに通い、難しい組み立てなどは人を雇うなどして1カ月後にはやっと少し落ち着くも、まだ開けていない箱が残る。事前に整理すべきだったが、「これは捨てる、それともキープ?」と迷う。処分したいが捨てられない物もある。
たとえば、写真アルバム10冊。写真をせっせとアルバムに収めた若かりし頃は、年を取ることなど頭にない。デジタル化は面倒だし、アルバム全体が人生の証のような気がする。ギリシャに住んでいた時期に母がよこした「エアメール書簡」の束もある。
「頼りない息子が異国で人にだまされてはいないか」と、さぞ心配したであろう母からの手紙。亡き母の心境に共感できる今、読むのが辛い。
新居は広めのパティオ付きで、ビルの谷間でも日当たりは良く、バーベキューもできる。春になったらきれいにしてハーブも植えよう。引っ越し祝いにと、シアトルの旧友がパティオ用のダイニング・セットも買ってくれた。新しい生活は何かいいことがあるようで心がときめく。快楽主義な自分は常に楽しいことを探し続けるのだろうか?