アールデコたてものツアー(3)
オールド・フェデラル・ビルディング
909 First Avenue, Seattle
前回、前々回に続き、シアトル建築協会のツアー「Diamonds & Gold: The Art Deco Skyscraper Northwest Style(ダイアモンド&ゴールド:ノースウェストのアールデコ高層建築)」で巡るビルをご紹介。3つめは、1932年に建てられたオールド・フェデラル・ビルディング。
ツアーで訪れた他のクラシックなビルはみな1920年代後半の数年間に建てられたものだが、これだけは大恐慌後、ルーズベルト大統領のニューディール政策の一環として建てられた連邦政府機関ビル。1970年代に道をへだてた向かい側に新しい連邦政府ビルが建てられたので、現在はこちらを「オールド」と呼んでいる。
政府機関ビルということもあって20年代の純粋アールデコ建築とは少しおもむきが違い、複数のスタイルが採用されている。例えば、エントランスを飾る動物の頭部などはボザール様式と呼ばれる新古典スタイルの踏襲だし、窓の上下の飾り板(スパンドレル)には当時最新の素材だったアルミニウム素材が使われていて、この後に来るモダニズム時代を予言しているようだ。とはいえ、垂直ラインを強調したセットバック(階層)型の外観、エントランス両脇の巨大な飾りつぼなどは明らかなアールデコ様式。ビル最上部の階層型の部分はノースウエスト地域の山々を模していて、白いテラコッタを使って雪をかぶった山の頂きを表現している。
テラコッタというのは20世紀前半の装飾的なビルに非常によく使われた素材。現在ではテラコッタというと植木鉢に使われている赤茶色でもろい「素焼き」材をさすが、この当時の建築素材として使われたテラコッタは釉薬をかけて焼いたものが多く、要するに「やきもの」材。石材よりも軽量で高層ビルに適していたうえ、石膏型を使って正確に同じ形の精緻なピースを作れるので、ボザール様式やアールデコ様式の華麗な装飾を作るのにうってつけの、20世紀前半のスター建材だった。日本でも大正から昭和初期にかけて洋館、商業ビル、官庁などの建築に装飾的な国産テラコッタがたくさん使われた。
このビルが建っている一画は、1889年のシアトル大火の火元となった家具工房があった場所。この大火でシアトルはいったん焼け野原になってしまった。その後ダウンタウン中心部では木造建築が禁止されたこともあり、シアトルの建築ではテラコッタが一世を風靡したのだった。当時はシアトル近郊にもたくさんのテラコッタ製造業者があったが、現在も稼働しているのは全米でもサンフランシスコにある一社だけだという。
[たてもの物語]