70歳にて素直になる? シニアの告白
素直になる、言い換えれば先入観をなくして頭を「空」の状態で人や事物に接すると、不思議と今まで避けていたか興味を持たなかったいろんな分野で「好き」な範囲が広がるようだ。
白状するが、最近まで人を外見で判断し、こちらから声をかけないことがあった。退職して5年経った今では、気持ちに余裕ができたのか、生存本能からずる賢くなっているのか、「美しい人もそうでない人も、みんな本当はさびしいのかもしれない」と思うようになり、誰にでもニュートラルな笑顔で話しかけられるようになった。すると、相手からも好意的な反応が返ってきて、雪解けが始まることが多い。
たとえば、近所のコミュニティーセンターへ、朝のシニア向けエクササイズに出かけると、ほとんど全員が女性(寿命の差か?)。筋トレなどルーティンを難なくこなす人、おそらく医者に言われて通うようになったなと思われる、インストラクターの指示についていけない人、いつも怖い顔つきの人など、いろいろだ。
以前だったら、均整が取れた美しいシニアには、自分など相手にしてくれないだろうと思って近寄らなかったり、逆に重い体で髪の手入れも雑な見た目に美しくないシニア(自分のことは差し置いて失礼!)には近付きたくなかったりと、思えば傲慢な態度で距離を置いていた。
近頃はやっと見た目にとらわれることなく、近くにいる人にはきっかけをつかんで誰彼構わず共通の話題で声をかけられるようになった。話すうちに、医者の情報や腰痛に利くエクササイズなど、有益な情報が交換できることが多い。そして何よりうれしいことは、話しかけた人が明るい顔になること。「やった!」と、一瞬でも大きな充実感に浸れる。
社交ダンスのレッスンでもそうだ。ひとりで練習している熟練ダンサーは、4年経っても初心者の自分とは違う人種と、近寄りがたい存在に見える。でも、世話焼きの友人の引き合わせでダンスを相手してもらい、「素直」に礼を言うと、初めて親しみのある顔つきに変わった。話し出すと意外とナイス。
いつもはダンスに集中しているからこその真剣な表情なのだと気が付く。そのあと、こちらから誘って仲間たちと夕食を共にした。好機会は自分から前に出ないとやって来ない。これからも勇気を出して、誰にも躊躇することなく、残りの人生を精いっぱい楽しみたいと思うきっかけとなった瞬間だった。
年を重ねると子どもに逆戻りするという。でも、いろんな経験を踏まえての素直さは子どものそれとは少し性格が違う。それこそ「年の功」だと思うのだ。