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アークティック・ビルディング

Arctic Building
700 3rd Ave., Seattle, Washington, 98104

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前回取り上げたアラスカ・ビルディングからチェリー通りの坂を1ブロック登った角にあるのが、シアトルでも指折りのユニークな外観が愛されているアークティック・ビルディング。なにしろ外壁にぐるりと牙も立派なセイウチの頭部が並んでいる、インパクト強烈なビルなのだ。
名前とセイウチたちが示すとおり極北に縁のあるビルで、クロンダイク・ゴールドラッシュによって盛んになったシアトル−アラスカ間の事業にたずさわる紳士の団体「アークティッククラブ」のクラブハウスとして1916年に建てられたもの。このクラブはアラスカ・ビルの最上階を会場にしていたアラスカクラブと1908年に統合した。会員資格として特別に極北圏との関わりは問われなかったが、ほとんどの会員はアラスカに赴いて事業を行ったことのある人やシアトル−アラスカ間の蒸気船の船長など、北方ビジネスに縁の深い人びとだったという。このクラブは70年代まで存続し、その後しばらくの間はシアトル市がこのビルをオフィスとして使用していた。
現在はヒルトン系のホテルとして活躍中で、外も内もすっかり修復され、その昔に入り口でクラブのメンバーを出迎えていたというシロクマの大きな像だけはなくなってしまったものの、ほぼ完璧に往時のままの姿が再現されている。エントランスホールの壁にはかつてのクラブ会員たちの写真が並び、ロビーにはシンプルで重厚なバーとビリヤード台が備え付けられ、客室も控えめながら北方探検を思わせるレトロな内装でととのえられている。圧巻なのはドーム型の天井を持つ大宴会場で、ステンドグラスと精緻な花綱の装飾を交互に組み合わせた巨大なブローチのような天井の下、タイタニック号の時代を彷彿とさせる華やかな空間が広がっている。
オフホワイトにブルーとサーモンピンクをあしらった外壁はテラコッタ(素焼きの陶材)製 。シアトルでは初の色付きテラコッタのビルで、現在でも充分目を惹く砂糖菓子のような外観は、1916年の完成当時は街中の耳目を集めたのに違いない。
19世紀末に起きた大火災のあと燃えない建材の需要が急増したこともあり、シアトルはアメリカ西部随一のテラコッタ製造拠点だった。いくつもの製造業者が技を競っていただけに、見事なテラコッタで外壁を覆ったビルが多いのも20世紀初頭のシアトル建築の特徴なのだそうだ。
アークティック・ビルディングはSAFの「Design Details Tour: Lions, Griffins &Walruses, Oh My!」ツアーでフィーチャーされている。

[たてもの物語]

Tomozo
シアトル生活7 年めの英日翻訳者。 livinginnw.blogspot.com 協力:シアトル建築財団(Seattle Architecture Foundation/SAF) シアトルの建築やデザインと人びとを結ぶことを目的に活動する非営利団体SAFは、シアトルの建てものを巡る楽しいツアーを常時開催中(英語のみ)。本コラムはツアーで紹介されるエピソードを中心に、SAFのエキスパートの協力を得ています。詳細はseattlearchitecture.orgへ。