Home 学校・教養 バイリンガル笑顔のタネ 遊学舎に聞く:バイリンガル...

遊学舎に聞く:バイリンガルの子どものアイデンティティー

シアトル近郊の専門家たちが、悩み多きバイリンガル子育てについて回答。子どもと楽しむ、子育てのヒント。

 

今回のテーマ

Q. バイリンガルの子どもがアイデンティティーについて悩み始めたら、親はどう対処すべきでしょうか?

 

A. アイデンティティーの形は多種多様。子どもに多くの選択肢を示し、生きたい方向に寄り添ってあげるようにしましょう。

 

アイデンティティーの問題と言葉の教育は密接に関係しています。人は言葉を使って考えながら話し、自分の気持ちを伝えます。言葉は、その国の文化や社会を反映しており、言葉を話すときの思考回路や表現方法として表れます。どの言語を話しているかは、その人自身のアイデンティティーと切り離せないのです。では、日常は英語で生活し成長していく子どもたちに日本語を学ばせることは、子どもたちのアイデンティティーにどう影響を与えるのでしょうか。

生まれたばかりの赤ちゃんには、アイデンティティーというものはありません。まだ自分と他人との区別がつかない赤ちゃんは、お母さんとの一体感、安心感の中から、自分とお母さんの関係を学び「自分とは何か」を知るようになるのです。

アイデンティティーは、他人との相互作用なしでは、確立できないもの。自分が安心、信頼できる社会において、自分がその中でどう見られるか、生きていくのか。「自分とは何か」を意味付けることがアイデンティティーの基礎となります。

成長に伴い言葉を習得する過程で、アイデンティティーも形成されていきます。忘れてはいけないことは、言葉は文化の一部だということです。言葉の学習は、漢字や文法を習うといった言語的な知識を得ることだけでなく、家庭で鯉のぼりを飾ったり、七夕を楽しんだりといった日本の習慣に親しむことで、より育まれます。また、日本の親戚と話をしたり、日本語学校で、会話や意見交換をしたりする人との交わりの中で、「自分は日本人である」というアイデンティティーが強まっていくのです。

2 つのアイデンティティーを持つと言うと、かっこよく聞こえるかもしれません。しかし、ティーンになり、特に自分の進路について考え始める時、自分はアメリカ人なのか、日本人なのかと悩むようになります。両親の国籍にかかわらず、日本語が強ければ強いほど、自分は日本人だと強く意識し始める傾向があるように思います。

アイデンティティーのあり方は、家族の数だけあります。日本の大学に進学し、日本人として生きることを選ぶ子もいますし、日本で結婚したものの、やっぱりアメリカに住みたいと伴侶を連れて戻って来た子もいました。また、日本語より英語が強くなっても、日本人であることに誇りを持って生きている子もたくさんいます。

私は、日本人だけである必要も、アメリカ人だけである必要もないと思っています。これからの時代は、ナショナリティといった枠組みにとらわれず、日本人でもアメリカ人でもある新しいアイデンティティーを持って欲しい。自分の置かれた環境によって、流動的にどちらにもなり得るしたたかさを持ち、2 つの文化の視点から人生を楽しめるようになれば良いのです。2つのバックグラウンドを持つ自分を認めて受け入れるまでは、悩んだり戸惑ったりする時間も必要です。

子どもがアイデンティティーに悩み始めたら、親は子どもにたくさんの選択肢や可能性を示して、子どもが生きたい方向に寄り添って環境を整えてあげましょう。たとえば、日本語の学習が子どもにとって将来どのような価値を持つのかを話し合って、日本への進学や交換留学を検討したり、今いったん日本語学習をやめても将来どのように日本語を生かす道があるのか話し合ったりしてみてはいかがでしょう。

 

 

教えてくれたのは

遊学舎
中島晴世さん

1歳から中学生までが日本語を学ぶ遊学舎校長。日本とアメリカで異文化コミュニケーションや異文化感情心理について学ぶ。専門は「日本人の異文化適応」。さまざまな心理学評論を研究、発表している。シアトルで子育てをしながら幼児期の母語教育の大切さを身をもって体験し、遊学舍設立のきっかけとなる

Yugakusha
5031 University Way NE., #110, Seattle, WA 98105
☎︎206-719-1741
http://yugakusha.org