子どもとティーンのこころ育て
アメリカで直面しやすい子どもとティーンの「心の問題」を心理カウンセラー(MA, MHP, LMHC)の長野弘子先生(About – Lifeful Counseling)が、最新の学術データや心理療法を紹介しながら解決へと導きます。
家庭内暴力を生まないために~反抗期の子どもへの接し方~
昨年11月にカリフォルニア州で起きた高校乱射事件の犯人は、日米ハーフの16歳の高校生でした。勉強もできる優等生で、周囲は驚きを隠せず、米日系人社会にも大きな衝撃を与えました。しかし実際のところ、彼を取り巻く家庭環境は複雑で、アルコール中毒の父親から日本人の母親は繰り返し家庭内暴力(DV)を受け、2016年に離婚。2017年には父親が心臓発作で死亡しています。16歳の高校生自身、2015年に母親への暴力で逮捕されたことがあります。彼の行為は決して許されるべきではありませんが、多感な思春期に恐怖に満ちた環境に置かれた彼の絶望的な精神状態を思うとやり切れない気持ちになります。
特に、思春期の子どもは何を考えているかわからず、意思の疎通が大人のようにはできません。いきなりわめき散らしたり、物を破壊したりなど理不尽な行動に出られると、こうした事件も他人事とは思えず、「わが子が犯罪を起こしてしまったらどうしよう」という不安が脳裏をよぎります。「私の子育てが間違っていたのかも」と落ち込み、イライラするのは、反抗期の子どもを持つ親の多くが体験すること。けれど、辛いのは親だけではありません。子ども本人も苦しんでいます。思春期の子どもは、体の急激な変化に心の成長がついていけずに戸惑っている状態。勉強に追われてストレスは溜まる一方なのに、親からはまだまだ子ども扱いで、友だちとの付き合いや同調圧力に悩み、理性的な判断を司る脳の前頭前野が未発達なため、衝動的な行動に陥りがちです。発達心理学者のエリクソンによると、およそ12歳から18歳までの青年期は自立した大人になるためのアイデンティティー確立の時期。この時期に親が対応を間違えると、深刻な怒り、劣等感、罪悪感などを抱え、「自分がどんな人間で、何をしたいのかわからない」という「同一性拡散の危機」を迎え、対人不安、無気力、回避行動や問題行動につながり、最悪の場合は暴力沙汰にまで発展しかねません。
思春期の反抗には、大きく分けて社会への反抗と権威への反抗の2種類があります。社会への反抗は、社会の常識・規範・社会問題や矛盾などに疑問を抱き、既存のシステムに反発する行為です。公共の場での迷惑行為、器物損壊、学校をさぼる、ドラッグ使用や飲酒、万引きなどの問題行動がこれに当たります。また、権威への反抗は、上下関係で上の立場にいる人への不服従であり、いちばん身近にいる権威者である親に怒りをぶつけてきます。具体的には、暴言を吐く、会話をしない、無視する、部屋にこもる、物を壊すなど。反抗的な行動に男女間の差はさほどありませんが、男の子は会話をしない、部屋にこもる、物を壊す、女の子は暴言を吐く、無視をする場合が多いとされています。
それでは、反抗期の子どもにどのように接すればいいのでしょうか。大切なのは、子どもをひとりの人間として信用し、見守ってあげること。守るべきルールは最小限に絞り、破った場合は頭ごなしに叱らず理由を聞いて、互いの合意点を探りましょう。子どもの非行は国や文化の違いにかかわりなく、ルールが多い、罰則が厳しいといった状況や、親が子どもに無関心なほど悪化し、親への反抗は、親が子どもの服装や趣味にまで細かくかかわる過干渉タイプほど激しくなるという調査結果が出ています。ほかの子どもや自分の若い頃との比較、長時間の説教はNGと心得て、ご飯はきちんと準備して、「あなたを信用しているよ。何があってもあなたの味方。話はいつでも聞くよ」と、安らぎの場所を与えることです。ただし、子どもの怒りが常軌を逸しており、自傷・他傷行為をする、これまで楽しんでいたものに興味をなくして部屋に長時間引きこもる、ドラッグ使用や飲酒、万引きなどの行為を繰り返す場合は、できるだけ早く主治医や専門機関へ相談しましょう。いずれにしても、子育ても反抗期もいつかは終わりが来ます。子どもを自立した大人へと導くためには、自分自身も子離れする必要があります。子どもは巣立っていくものと日々意識して、子どもと一緒に過ごせる今この瞬間を大切にしたいものですね。