「日本に行きたい!」と
思ってもらえることがゴール
~イサクア・ハイスクールの例~
イサクア学区の高校1〜4年生(Grades 9–12)が通うイサクア・ハイスクールに、「日本語を教える名物先生がいる」という噂を聞き、取材に訪れました。段下宏貴先生の気になる授業内容とインタビューをお届けします。
山々に囲まれた中で現代的なデザインが際立つイサクア・ハイスクール。現在、約190名が日本語クラスで学ぶ。同校で日本語を10年担当する段下先生は、荒くれ者ばかりそろう養護学校の仕事での大ケガをきっかけに、大学院で修士、教員資格を取得して現職に。ベルビュー・カレッジでも2年前から日本語クラスを受け持つ。
授業を見学させてもらって驚いたのはそのスピード感。分刻みで次から次へと課題が変化し、生徒たちも忙しく立ち回る。まるでカリスマ塾講師の授業を思わせるユニークさだ。課題は、パートナーとのフラッシュカード学習、スマートフォンを使った漢字の読み方クイズ、各自が持つミニホワイトボードに書いた漢字の答え合わせ、スクリーンに映し出した人物写真の服装説明、架空の自己紹介文をモチーフにした作文、質問に対する回答の練習といった具合だ。時間が来たらパッ、パッと切り替わるため、生徒たちは集中して課題に取り組まないと置いていかれる。黙ってノートをとる時間が長い日本の高校のイメージとは全く異なる。
教師評価サイトの段下先生のページを見た。「授業が面白い」、「楽しい先生」、「熱心に教えてくれる」、「日本語を早く習得できるようにアクティビティーなどをいろいろ工夫してくれる」など、生徒たちのコメントが並んでいる。「クオリティー」は5段階評価で5を獲得。30人ものウエイティング・リストがあるほど人気なのもうなずける。2014年にはワシントン州PTAによる表彰も受けたそう。「毎回、新しいこと半分、復習半分の時間配分を心がけています。日本語を好きになってくれることが大前提。テスト結果が悪くても、授業に参加して宿題をこなしていればB以上をあげたい」と、段下先生。「そうしないと取ってくれない! 日本語は難しいですからね」
テイラー万里奈さん
母が日本人なので、小さい頃から日本語を学んで育ち、ほかのクラスメートと日本語レベルが合わなかったんです。でも、段下先生が特別なレッスン・プランを作ってくれたので、日本語がより上達しました。内容は想像以上に難しいものだったのですが、とても感謝しています。段下先生は明るくて、いつも私たち生徒を笑わせていたのを覚えています。特にオレオ・ルーレット・ゲームは面白かった! 5人のうち1人のオレオにワサビが入っていて、誰がワサビ入りかわからないように食べなければなりません。このゲームはクラスのお気に入りでした。
段下宏貴先生にインタビュー
—同校での日本語クラスのシステムは?
1日7時間授業になってからは毎日、1年生、2年生が各2コマ、3年生、4・5年生が各1コマの、計6コマを教えています。4・5年生クラスは、すでに日本語学習経験のある生徒向けです。APクラスはなく、代わりにカレッジ・イン・ザ・ハイスクールの制度を利用しています。3年生、4・5年生の日本語クラスを取れば、1年で5単位、2年で10単位が、提携するカスケーディア・カレッジからもらえます。テストのあるAPより融通が利くうえに、日本語クラスの人数確保にもなります。
—生徒たちの日本語力アップのために工夫していることは?
生徒たちにはよく「あきらめずに2年」と言います。実際、そのくらいで結果が出始めることは多い。最初はなめられないようにルールを徹底し、あとは楽しく、自分をさらけ出して家族のような距離の近い関係を築きます。「間違ってもいい」というメッセージが伝わる雰囲気作りを心がけています。顔と名前を覚え、ひとりひとりに声をかければ、生徒も「私を覚えてくれている」とやる気が出るもの。毎朝5時45分に来て準備し、昼休みは教室を開放。授業後も最後まで教室に残り、生徒の質問に答えられるようにしています。
—日本との交流について教えてください。
和歌山出身で高校は英文科だったのですが、修学旅行先がシアトルだったんです。その母校に、6年前からイサクア・ハイスクールの生徒約20名が毎年3月に1週間、ホームステイをしながら通えることになりました。もう1週間は日本各地を旅行して回ります。イサクア・ハイスクールでも母校からの留学生を受け入れています。
—日本語の学びが生徒たちにとって、将来どのような役割を果たすと思いますか?
アニメやゲーム、伝統文化、歴史、工芸、車など、日本の好きなものが、将来のヒントにつながることがあります。実際に日本へ行き、さまざまな価値観に触れ、視野を広げて欲しい。全ての生徒が日本語を学びながら「1度は日本に行ってみたい」と思ってくれるように、日々頑張っています。6年前、複雑な家庭環境を持つやんちゃな生徒がいたのですが、親代わりとして寄り添い、たくさん褒めていたら日本語を頑張り始め、ワシントン州日本語スピーチ&スキットコンテストで優勝するまでになりました。旅行券をもらって日本にも行き、その頃から日本に留学したいと思っていたようです。コミュニティー・カレッジを出て就職してからお金を貯め、ようやく4年制大学編入と早稲田大学留学の夢を叶え、現在は日本にいます。