人類で最も多い感染症であるとされている歯周病については、これまでもこのコラムで何回も取り上げてきました。歯周病は歯肉の炎症で始まり、それが 長く続くと歯を支える歯槽骨をも破壊し、歯がぐらぐらしてきて歯を失う原因となります。また重度の歯周病は、高血圧、糖尿病、肺炎、脳梗塞、心筋梗 塞などの全身疾患に罹患しやすくなる可能性に関してもこのコラムでも書いてきました。
歯周病の根本的な原因は口腔内の細菌ですが、全身の免疫機能も深く関わっています。決定的な治療法はいまだ確立されているとは言えませんが、最近、 米国・ペンシルベニア大学のHajishengallis George教授および新潟大学の前川知樹助教などの研究チームはDel-1(Developmental endothelial locus-1) という血管内皮細胞や脳で多く作られるタンパク質が、歯周病治療に有効である可能性があることを明らかにし、非常に注目されています。今回はDel-1と歯周病の関係を中心に書いていきたいと思います。
これまでのDel-1 と歯周病の関係を示す研究を要約すると以下のようになります。
1.1998年、Chiaki Hidai らによってDel-1が血管の内皮細胞という細胞から発見される。
2.その後、Del-1には炎症作用を抑制する作用があることが明らかになった。
3.Del-1の遺伝子を人為的に除去したマウスを作製すると、脳脊髄炎あるいは歯周炎が引き起こされた。
4.人間においてもDel-1の遺伝子が欠損していると炎症性疾患が増えることが分かってきた。
5.高齢のマウスでは、Del-1のレベルも低く、歯周炎の程度が顕著である。
6.歯周病を実験的に作ったサルにDel-1を注射したところ、歯周炎の発症と進行が軽減された。
これまでの研究から、体内で作られるDel-1は歯周炎を防いでくれる可能性があることがわかっており、さらなる研究の進展が待たれるところです。しかしながら、歯周病や虫歯の予防としての毎日のブラッシング、フロスの使用を中心としたプラークコントロールの重要性には変わりはありませんので、 日々頑張っていきたいものですね。
[健康な歯でスマイルライフ]