小生が歯学部で学生だったころは、小児歯科治療では「4歳以下の場合を除き、親を診療室に入らせない」が原則でした。それはドクター・スターキーという方が提唱する「治療の際は親と子どもを引き離す(Parent-child separation)」という概念が、小児歯科の世界で信じられていたからです。しかし、ここ最近はこの概念が大きく変わってきているようです。今回は小児歯科治療における親の入室の是非について書きたいと思います。
長い間行われていた Parent-child separationの理由
4歳以下または心身に障害のある子どもには、親が治療に参加することが有意義であるとされていましたが、下記の理由で原則として診療室に親を入れないほうが良いとされていました。
- 親がいろいろ命令して治療中の歯科医と子どもを困らせることがある。
- 親の監視下では反対されるなどして、歯科医側が子ども向けに声のイントネーションを使った語りかけをしにくい。
- 子どもの注意力が歯科医と親に分断され、そがれる。
- 歯科医の注意力も親と子どもに分断され、そがれる。
- 歯科医は、親が診療室の外にいてくれたほうが、リラックスして診療できる傾向にある。
最近の研究
- 2010年:アメリカでは74パーセントの小児歯科医が、子どもの治療中、親の入室を許可して いる(J N Dent Assoc 81:32-37)。
- 2011年:イランでの研究。5歳児67人(男児33人、女児34人)を2グループに分け、親の存在が歯科診療における不安や行動に影響するかを比較検討したところ、有意な差が認められなかった。
- 2016年:ヨーロッパにおける研究。平均7 歳の患者における100人の親を対象に、入室の是非を調査。親がいないと子どもはより不安に感じ、2回目の虫歯の治療に悪影響を与えるが、親の存在は子どもの行動自体にはあまり関係ないことがわかった。つまり、親が診療室に入ることは問題なく、むしろ子どもの精神状態に良い結果を及ぼす可能性が考えられる(Eur Arch Paediatr Dent 17:381-386)。
まとめ
これまでは、小児診療時に親を入室させないのが良いとされていたが、最近の研究では、少なくとも関係ないか、むしろ親を入れたほうが、子どもの治療がスムーズに行くといった考えが定着してきたようです。子どもの扱いに関しては親がいちばん詳しく、スムーズに治療できるよう子どもを落ち着かせ、治療を助けることも少なくありません。
しかし、子どもによっては、親が側にいることで甘えが出て、治療にマイナスなこともあるように、経験上は思います。原則、親が希望すれば入室を認め、治療をサポートしてもらいつつも、ケースによっては、親と引き離したほうが良い結果が出るかもしれません。
[健康な歯でスマイルライフ]