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骨粗しょう症薬のビスフォスフォネートと歯科治療

健康な歯でスマイルライフ

日本では北海道医療大学歯学部で博士号を取得。米国でもロマリンダ大学歯学部を卒業し、2005年にPAN-PACIFIC DENTISTRY(パンパシフィック歯科医院)を開業した中出修先生に、アメリカで生活する日本人へ向けて歯や口腔について、説明していただきます。

骨粗しょう症薬のビスフォスフォネートと歯科治療

患者さんが服用している薬剤の中で、歯科治療の際に注意すべき薬剤は数々あるのですが、その中でも近年服用が多くなっているなと感じる薬剤が骨粗しょう症の治療薬のひとつ、ビスフォスフォネートです。当院の患者さんも、特に40代以降の女性で服用する方が増えています。以前、このコラムでも取り上げましたが、アップデートすべき時期に来たと思われますので、今回は歯科治療における注意点を中心に書いていきます。

閉経後の骨粗しょう症

骨は、身体を支えるのはもちろん、カルシウムの最大貯蔵庫でもあり、カルシウムの代謝において中心的役割を果たしています。骨の形態は、骨形成(骨芽細胞による)と骨吸収(破骨細胞による)を常に繰り返しながら保たれており、成人では1年間におよそ20〜30%ほどの骨が入れ替わるとされます。これを「リモデリング」と言います。

女性は閉経時から閉経後にかけて女性ホルモンのエストロゲンの分泌が急速に低下し、その影響で骨形成と骨吸収のバランスが崩れ、骨吸収が優位になります。そのため、骨の密度が減少し、いわゆる骨粗しょう症が増える傾向にあります。男性にも主に高齢による骨粗しょう症は起こりますが、女性の3分の1以下に過ぎません。

ビスフォスフォネートの作用

ビスフォスフォネートはピロリン酸の類似体で、体内に取り入れられると骨親和性が高く、骨に沈着しやすい性質を持っています。骨に沈着したビスフォスフォネートは、簡単に言うと破骨細胞が嫌いな物質です。

破骨細胞はある種の酵素の使用により骨吸収を行うのですが、ビスフォスフォネートはその酵素の働きを阻害して骨吸収を妨げ、また破骨細胞の自爆死(アポトーシス)も増やします。その結果、エストロゲン低下によって骨吸収優位に傾いた状態を補整し、特に閉経後の骨粗しょう症を予防あるいは改善してくれます。

ビスフォスフォネート投与の歯科的問題

歯科で問題となるのは、抜歯などの外科的処置後、治癒不全(顎骨壊死、下顎に多い)が起きやすいことです。それ以外の通常の歯科治療では問題ありません。原因は不明ですが、破骨細胞が骨の治癒にも重要な役割を果たしているのは間違いありません。ビスフォスフォネートは経口投与よりも注射投与した場合に抜歯後の治癒不全を起こしやすいと言われています。

インプラント手術などは問題ないとする研究もあり、意見の分かれるところですが、われわれ歯科医もビスフォスフォネートを処方している担当医と連絡を取って、ビスフォスフォネートの休薬の検討について意見を聞くなど慎重になる必要があります。

ビスフォスフォネート服用の注意点

ビスフォスフォネートの投与を検討する場合、できれば投与後の抜歯は避けたいので、歯科治療は完了させておきましょう。また、口腔の清掃状態が良くないと抜歯後の治癒不全も起きやすいため、歯科健診および歯のクリーニングを継続して行うようにしてください。 また、すでにビスフォスフォネートを服用している方は、歯科治療を受ける前に、必ず骨粗しょう症の治療を受けていることと、使用薬名、投与方法を歯科医に伝えましょう。

中出 修
福井県出身。1985 年、北海道医療大学歯学部卒業。1993年、同大で博士号を取得後、講師に就任。 2003年、ロマリンダ大学歯学部卒業。歯科医勤務を経て2005年、タコマ近郊に開業。2006年10月にサウスセンターモール近くに移転。 パンパシフィック歯科医院 Panpacific Dentistry 411 Strander Blvd. Suite 207, Tukwila, WA 98188 ☎ 253-243-7748