人類の虫歯の歴史は古く、今から100万年以上前に存在したアウストラロピテクスには、すでに虫歯があったそうです。虫歯が劇的に増えていったのは、18世紀半ばの産業革命以降、炭水化物や砂糖の消費が増えた頃からと言われていますから、実に長い間、人類を悩ませ続け、未だに克服できていない厄介な疾患の一つであると言えます。克服できない理由の一つに、歯の表面に口腔細菌が作り出すバイオフィルムという膜状の構造体のため、抗生物質などの抗菌物質が入り込めないことが上げられます。この口腔バイオフィルムを破壊するための、酸化鉄のナノ粒子触媒を用いた、ペンシルベニア大学のKoo教授らの研究が注目されています。今回は、その研究を中心に書いていきます。
口腔バイオフィルムについて
バイオフィルムとは、固体の表面に微生物と微生物が作る、菌体外多糖などの産生物が集まってできた自然界に広く存在する構造体を指します。バイオフィルム内は微生物が密に存在し、バイオフィルムの外とは全く異なる環境です。歯垢(プラーク)はバイオフィルムの典型的なもので、口腔バイオフィルムとも呼ばれています。
口腔バイオフィルムを除去するには
- 基本となるのは、あくまでも物理的除去。すなわち、歯ブラシ、フロス、歯間ブラシなどで、機械的に除去することが重要。
- 薬物による除去:ミュータンス菌などの虫歯菌を殺菌してバイオフィルムを少なくする方法。クロルへキシジン、フッ素、過酸化水素水、あるいはテトラサイクリンやマクロライド系の抗生物質が使用されている。
今回の研究
薬物:酸化鉄(Fe3O4)のナノ粒子と1%の過酸化水素水(Hydrogen Peroxide、H2O2)を使用。
作用:酸化鉄のナノ粒子は、pHが中性付近では作用しないが、pH5あたりに近づいて虫歯を引き起こすぐらいの酸性になってくると触媒として作用を開始し始め、H2O2を分解し、フリーラジカルを生じさせる。このフリーラジカルが、バイオフィルムを破壊するとともにミュータンス菌を99.9%殺菌する。
動物実験:ミュータンス菌に感染させたラットを用いた実験(1日2回、1分づつを3週間)で、 酸化鉄(Fe3O4)のナノ粒子と1%の過酸化水素水を同時に使用すると、1%の過酸化水素水のみ使用した場合に比べ、明らかに虫歯の発生、および進行を抑制し、特に口腔粘膜などに副作用も見られなかったという。
まとめ
将来、酸化鉄(Fe3O4)のナノ粒子と過酸化水素水を歯磨き剤や洗口剤に応用できれば、虫歯予防に一定の効果を期待できるかもしれません。今後の研究の進展に期待したいところです。しかし、毎日の歯磨き、フロスなどの口腔ケアが重要なのは今後も変わらないことでしょう。定期検査とともに、やはり毎日の口腔ケアを大事にしましょう。
[健康な歯でスマイルライフ]