歯科医院でルートキャナル(歯の神経治療)が必要と言われた場合、その後、クラウン(被せ物)もあわせて必要と言われることが少なくないと思います。患者さんの立場から言うと、ただ単に詰め物をするのに比べ自分の歯を削られる量も多くなるし、費用も高額になるので、なんとか詰め物だけでできないかと思われる方も少なくありません。しかし、最近の研究を見ていると、正当な理由が見えてきます。そこで今回は、ルートキャナルの後のクラウンの必要性について書いていきたいと思います。
クラウンを入れると歯の寿命が伸びる。
2002年にアイオワ大学歯学校のAquilino らは、1985 年7 月から1987 年12 月までにルートキャナルがなされた280人の合計400本の歯について追跡調査を行った結果、クラウンを入れなかった場合はクラウンを入れた場合に比べ、その後何らかの理由で抜歯に至った率が6倍も高かったと報告しています。また2005年、タイのNagasiriらの報告では、ルートキャナルの後、クラウンを入れなかった場合、その歯の生存率は1年後で96%、2年後は88%だったのが、5年後の生存率はわずか36%であったと報告しています。
ルートキャナル後にいいクラウンを装着するとルートキャナル自体の成績も良くなる。
1995年にベルギーのGhent大学歯学校の Tropeらは、ルートキャナルとクラウンをそれぞれに質の良いものと悪いものに分類し、その後のルートキャナルの成功率との相関関係を調べました。その結果一番成績が良かったのは当然、ルートキャナル、クラウン共に質の良いものでしたが、驚くことにルートキャナル自体の予後に重要なのはルートキャナルの質よりもむしろクラウンの質だった、と結論付けています。その後、同様の結果を示す論文が多数報告されています。
このようにルートキャナル後にしっかりとしたクラウンを装着することは、その後、歯を長く持たせるために重要であると言われています。ルートキャナルの後ただ詰めるだけでは、詰め物と歯の微細な隙間から細菌感染を起こし、ルートキャナル後の再感染を起こす可能性がより高くなり、結局、ルートキャナルのやり直しにつながっていきます。また、強度においても十分ではないため、歯も壊れやすくなり、抜歯の可能性が増すというわけです。
一昔前までは、ルートキャナル後クラウンを入れるのは、時間の経過とともに歯がもろくなり、色も黒く変色するためと言われていましたが、最近ではルートキャナル自体の成績のためにもクラウン装着は重要と言われるようになってきました。ルートキャナルの後は、詰め物で終わるよりはクラウンを装着した方が賢明と言うことができると思います。
[健康な歯でスマイルライフ]