健康な歯でスマイルライフ
日本では北海道医療大学歯学部で博士号を取得。米国でもロマリンダ大学歯学部を卒業し、2005年にPAN-PACIFIC DENTISTRY(パンパシフィック歯科医院)を開業した中出修先生に、アメリカで生活する日本人へ向けて歯や口腔について、説明していただきます。
糖尿病で歯が弱くなる?
糖尿病と歯科疾患との関係については、これまでもこのコラムで何度か取り上げてきました。糖尿病があると、歯周病、口腔乾燥症、虫歯などになりやすくなります。逆に重度の歯周病がある場合も、インスリン抵抗性が出てくるため、糖尿病につながりやすいことがわかっています。 糖尿病には大きく1型糖尿病と2 型糖尿病があり、最近は実験的に1型糖尿病にさせたマウスを使い、興味深い研究も行われています。今回はこの研究について書いていきたいと思います。
1型糖尿病と2型糖尿病
1型糖尿病は主に自己免疫によって引き起こされる病気で、比較的若年層から発症するのが特徴です。すい臓の内分泌腺にあるランゲルハンス島β細胞はインスリンを作り出す細胞ですが、これを体が異物だと誤認し、破壊してしまうことでインスリンの分泌量が低下し、発病します。
一方、2型糖尿病は主に生活習慣病の関係から発症しやすく、インスリンの分泌量と言うよりは、インスリンの感受性の低下(インスリン抵抗性)が原因で起こります。中年以降に見られることが多いのも特徴です。
研究の概要
1型糖尿病の動物モデルには大きく、自然発症型と薬物発症型があります。今回の研究(Archives of Oral Biology, 2022; 139: 105434)では、ストレプトゾトシン(STZ :Streptozotocin)という抗生物質を投与することにより、実験用マウス(C57BL/6 型)の35匹を1型糖尿病状態にして、薬物を投与していないコントロール群 35 匹と比較検討しています。
実験期間は0、1、4、8、12、20、28週、調査対象は第二大臼歯(奥歯)のエナメル質および象牙質の硬さ(マイクロビッカース硬度)です。その結果、エナメル質ではSTZによる1型糖尿病のモデルマウスの12週以降(12、20、28 週)において、コントロール群よりも統計学上の有意差を持って、エナメル質の硬度が低くなっていました。また象牙質では、1型糖尿病のモデルマウスの20 週以降(20、28 週)において、コントロール群よりも硬度が低い傾向に。ただし、統計学上の有意差が出たのは28週のみでした。
つまり、1型糖尿病になると、歯自体の強度が弱くなる可能性があり、その影響は象牙質よりもエナメル質でより顕著だと言えます。
まとめ
この研究結果が、そのままヒトの歯に当てはまるかどうかはまだわかりません。しかし、今回の研究は、高血糖、口腔乾燥症、あるいは免疫力低下を介して虫歯になりやすいと思われた従来の概念を覆し、糖尿病が直接、歯の強度に影響を及ぼしている可能性を示唆する点でとても興味深いものです。
これは何を意味するのでしょうか? 1型糖尿病になると、カルシウム代謝にもマイナスに働き、唾液中のカルシウム濃度が下がることで歯の再石灰化を妨げ、歯の強度を弱くするのではないかと想像します。われわれ現場の歯科医も、この結果を臨床に生かしていきたいと思います。