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歯周病を改善するジェルができるかもしれない?〜健康な歯でスマイルライフ第186回

健康な歯でスマイルライフ

日本では北海道医療大学歯学部で博士号を取得。米国でもロマリンダ大学歯学部を卒業し、2005年にPAN-PACIFIC DENTISTRY(パンパシフィック歯科医院)を開業した中出修先生に、アメリカで生活する日本人へ向けて歯や口腔について、説明していただきます。

歯周病を改善するジェルができるかもしれない?

歯周病は人類において最もありふれた炎症性疾患のひとつで、30代以降では半数近くが歯周病を有していると言われます。歯周病の要因は多岐にわたりますが、最大の要因として挙げられるのは、口腔内の細菌叢さいきんそうと、われわれ自身の免疫力です。最近、ニューヨーク州立大学歯学部において、コハク酸(Succinate)という体内で作られる物質のレセプター(受容体)をブロックする薬剤を含んだジェルで歯周病を改善する研究が発表され、注目を集めています。今回は、この研究を中心に書いていこうと思います。

コハク酸が歯周病に関与している?

生物学で習った方もいるかもしれませんが、コハク酸は主に細胞のミトコンドリア内でクエン酸(TCA)回路経由で作られます。それ以外の経路においても産生され、細胞外のシグナル伝達、遺伝子制御など、生物学的に重要な役割を担っていることがわかってきました。

一方で、コハク酸は炎症過程においてもレセプターを活性化させるため、炎症がひどくなることが明らかになっています。コハク酸が歯周病に関与している可能性を示唆する過去の研究もあります。「歯周病で炎症がひどくなると、歯周ポケット内の滲出液(GCF)の中にコハク酸などのカルボン酸と言われる物質が増える」(日歯周誌:30(4):985-995, 1987)、「コハク酸値の上昇に伴い、コハク酸のレセプターの遺伝子発現率も上昇し、歯槽骨の吸収を刺激する」(Nature Communication 8, 15621, 2017)というものです。

ニューヨーク大学歯学部の研究の概要

従来の歯周病治療では、炎症を抑えながら口腔内の細菌叢にも影響を与えず、なおかつ歯槽骨の吸収を抑える方法がありません。そのため、ニューヨーク大学歯学部ではそれをかなえるべく、研究・開発に着手しました。

まず、ヒトのプラークの分析およびマウス実験を行いました。コハク酸のレセプターの遺伝子をなくしたマウス(ノックアウトマウス)を用意し、通常の野生タイプのマウスとノックアウトマウスの各々において臼歯間に糸を挿入して実験的に歯周病を作り、歯周病の程度などを比較検討しました。さらに、コハク酸のレセプターをブロックする薬剤が入ったジェルを作製し、その歯周病抑制効果について検討しました。

その結果、ノックアウトマウスのほうが、歯肉の炎症の程度や歯周病の悪玉菌の比率が低く、骨吸収も抑制されていました。これは、コハク酸のレセプターをなくすと、歯周病を抑制できる可能性を示唆するものです。次にコハク酸のレセプターをブロックするジェルを歯肉に局所的に塗布し、同様の結果が得られるかどうかを調べました。すると、このジェルの局所塗布でも、歯肉の炎症の程度や歯周病の悪玉菌の比率が低く、骨吸収を抑制する効果が確認できました。

まとめ

研究結果を踏まえると、増加したコハク酸のレセプターをブロックする薬剤が入ったジェルは、歯周病治療に有効である可能性が考えられます。これまでの歯周病の薬剤は、口腔内の善玉菌を含めた全ての細菌を死滅させるものがほとんどでした。このジェルでは全ての菌を死滅させることなく歯周病を改善できるため、とても興味深い研究だと思います。今後の研究の進展に期待したいものです。

中出 修
福井県出身。1985 年、北海道医療大学歯学部卒業。1993年、同大で博士号を取得後、講師に就任。 2003年、ロマリンダ大学歯学部卒業。歯科医勤務を経て2005年、タコマ近郊に開業。2006年10月にサウスセンターモール近くに移転。 パンパシフィック歯科医院 Panpacific Dentistry 411 Strander Blvd. Suite 207, Tukwila, WA 98188 ☎ 253-243-7748