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喫煙によるルートキャナルのリスク

健康な歯でスマイルライフ

日本では北海道医療大学歯学部で博士号を取得。米国でもロマリンダ大学歯学部を卒業し、2005年にPAN-PACIFIC DENTISTRY(パンパシフィック歯科医院)を開業した中出修先生に、アメリカで生活する日本人へ向けて歯や口腔について、説明していただきます

喫煙によるルートキャナルのリスク

タバコが歯周病のリスクファクターであることは昔から知られており、研究も数多くあります。このコラムでも何度も取り上げてきました。一方で、タバコと歯の神経治療(ルートキャナル)の関係についての研究はさほど多くありません。実際には、歯の神経治療に携わる専門家の間で、喫煙者だとルートキャナルの治りが良くないと長年ささやかれていました。最近になって、タバコがルートキャナルに良くないことが徐々にわかってきています。今回は、喫煙とルートキャナルの関係について書いていきたいと思います。

ボストン大学の疫学的研究

811人の男性を喫煙者、生涯非喫煙者に分け、歯のルートキャナルの本数を比較検討しました。追跡期間は2~28年。現在の喫煙者は、生涯非喫煙者に比べて1.7本もルートキャナルの歯が多い結果となりました。普通のタバコとパイプタバコの間には有意な差は見られません。また、喫煙期間が長くなるとルートキャナルの本数も多くなり、禁煙期間が長くなるとルートキャナルの本数は減っていました。これらの結果から、喫煙は容量依存的にルートキャナルを増やすことが示唆されました。(J Dent Res 85:313-317, 2006)

ケース・ウエスタン・リザーブ大学の歯髄組織の免疫学的研究

32人の喫煙者と37人の非喫煙者から採取された歯髄(健康な歯髄および歯髄炎になった歯髄含む)における免疫物質、IL-1β、TNF-α、human β defensin-2(hBD-2)、human β defensin-3(hBD-3)の量の違いを比べた研究。その結果、喫煙者で、TNF-αおよびhBD-2という免疫に重要な役割を果たしている物質の量が減っていることが明らかになりました。健康な歯髄と炎症のある歯髄との間に、これらの免疫物質の有意な差は認められませんでした。この結果は、タバコを吸うと、歯髄(いわゆる歯の神経)のある種の免疫物質が減り、歯髄の防御反応が弱くなり、ルートキャナルになってしまう可能性が高まることを示唆しています。ルートキャナルの治療になった際に、治療が長引いたり、上手くいかなかったりする可能性もあります。(J Endod. 43:2009-2013, 2017)

まとめ

タバコはこれまで、1.感染に対する防御反応を悪くする 2.全身の骨量を低下させる 3.血流を低下させるなどの理由から、歯周病に良くないことがわかっていました。しかし、歯の神経に及ぼす影響はほとんどわかっていませんでした。タバコは全身の健康はもちろんのこと、口腔の健康にも良くないことは明らかなようです。やはり、健康のためには、禁煙するに越したことはなさそうです。

中出 修
福井県出身。1985 年、北海道医療大学歯学部卒業。1993年、同大で博士号を取得後、講師に就任。 2003年、ロマリンダ大学歯学部卒業。歯科医勤務を経て2005年、タコマ近郊に開業。2006年10月にサウスセンターモール近くに移転。 パンパシフィック歯科医院 Panpacific Dentistry 411 Strander Blvd. Suite 207, Tukwila, WA 98188 ☎ 253-243-7748