50代半ばの男性が、聴力検査と補聴器を目的に来院した。何度も聞き返されて不満が溜まっていた家族から強く勧められたようで、また本人も、仕事中に質問を聞き取れないと感じることが多くなっている自覚があった。彼は講師の仕事をしており、暴力行為を起こした人たちとその予備軍に、暴力行為を抑え、負の感情を別のことに向けさせる方法を教えている。各クラスは15名から30名ほどの生徒がいて、4時間から6時間ほどかかる。17歳から22歳頃までと、思春期から大人になりたての、感情
が安定していない生徒を相手にしなければならない。大変だが、やりがいのある仕事でもあると話してくれた。精神的に落ち着きがなく、将来に悲観的で、自信を持てない生徒たちは、発言や質問があっても声が非常に小さい。教室のサイズが大きいために、か細い声を聞き取って、適切な回答をするのが難しく、授業後にとても疲れるそうだ。クラス後、ちゃんと会話を聞き取れたか、一緒にいたアシスタントの講師に尋ねてみたところ、問題ないと回答され、彼の聴力に問題があることを痛切に感じたという。大学では音楽を専攻し、長年楽器を演奏する趣味があった。
来院前の3週間に風邪を引き、少し鼻声だった。風邪のせいで、両耳の鼓膜がその影響を受けていたが、鼓膜は動いていた。幼少期に、何度か痛みを伴う中耳炎にかかったようで、鼓膜がかなり伸びきっていた。聴力は、両耳とも、中音から高音にかけて難聴で、音楽による聴力への影響が高音部分に表れていた。昔は、今ほど聴力を守るための知識がなかったために、難聴になることは避けられなかったと思う。
聴力が落ちているだろうと覚悟はしていたが、これほどの聴力低下が50代半ばであるとは予想もしていなかったようで、少しショックを受けていた。どちらにしても、このままだと仕事に支障を来たすことは明白なため、早速補聴器を貸し出すことになった。装着後、音量を調整して、使用方法の説明をしたあと、補聴器を切って私の声を聴いてもらった。補聴器ありと補聴器なしとでは聞き取れる音の差が大きいとコメントしていた。貸し出した補聴器を返却しに来た時、補聴器をつけて会話をすると家族が非常に喜んでくれるとうれしそうに話してくれた。仕事場に行ったら、周囲で同じ補聴器をつけている人が数名いることがわかり、安心したそうだ。
購入の1カ月後に来院した時には、今では補聴器がないと非常に困ると話した。息子と車に乗った際も、会話が難しいと感じた息子が補聴器について尋ねたところで忘れたことがわかり、慌てて取りに帰ったとか。彼と彼の家族にとって、補聴器は必須アイテムになっているようだ。