がん患者だけでなく、悩める人たちの心身の健康をサポート。現在のアメリカの医療環境で今、私たちができることを探ります。
認知症を予防するには?
科学的根拠の乏しい「脳トレ」
「認知症予防」と聞くと、何を思い浮かべるでしょうか。サプリメントや脳トレという言葉が思い浮かぶ人も少なくないかもしれません。しかし、世に多くある「認知症に効く脳トレ」といった広告の多くは製作者や販売者の仮説でしかなく、科学的根拠に乏しいものが多いのが実情です。特定のアプリやゲームが認知症予防に効果的とする証拠は現時点では見つかっておらず、仮説に基づく主張に過ぎないケースも多々あります。そのため、こうした商品やサービスを過信するのではなく、冷静に捉える姿勢が大切です。特定の方法に頼りすぎると、本来取り組むべき大切な要素を見逃すことにつながりかねません。
修正可能な認知症リスク
世界保健機関(WHO)は、認知症リスクに関わる修正可能な要因を14項目挙げています。具体的には、教育の欠如、聴力低下、高LDLコレステロール、うつ、頭部のけが、運動の欠如、糖尿病、喫煙、高血圧、肥満、過度の飲酒、社会的孤立、大気汚染、視力低下です。これらに対処することで、理論上は認知症の半数近くを予防できる可能性があるとされています。たとえば、頭部のけがを防ぐために自転車やバイクのヘルメットを着用する、運動習慣をつける、飲酒量を1日ビール2缶(350ミリリットル/缶)程度に抑える、禁煙を心がける、肥満の人はダイエットに取り組むといった生活改善が効果的です。また、人間関係を大切にすることや視力や聴力のケアを心がけることも大切です。日常的にさらされている騒音や大音量のテレビ・音楽も少しずつ耳を傷つけています。音量を少し控えめにすることが将来のあなたの耳を守ることにつながります。
また、大気汚染などは個人の努力では変えられない思うかもしれませんが、実は大気よりも家庭内の空気の方が汚染されている場合もあります。特にガスコンロ使用後の換気不足は問題です。換気は感染症対策の一環として語られることが多いですが、認知症予防としても重要な役割を果たしているかもしれません。
生活習慣病にも注意
認知症リスクに関わる14項目には、高血圧、糖尿病、高コレステロールといった生活習慣病も含まれています。健康診断を定期的に受け、異常があれば医師の指導のもとで治療に取り組む、こうした医師との二人三脚が認知症予防のためにも大切なのです。認知症予防は、一見魅力的に見えるサプリメントや脳トレにあるのではなく、あなたの身近なライフスタイルに密接に関連します。
先の14項目を見直し、日々できる範囲で改善していくことが将来の認知症予防につながります。効果がすぐに目に見えなくても、「塵も積もれば山となる」。少しずつ積み重ねていくことが将来の自分への投資になるのです。
アメリカでの相談先
米国在住で「認知症が心配」「認知症かもしれない」と感じた場合、まずはかかりつけ医師(プライマリケア医)に相談するのが最初のステップです。かかりつけ医が認知症の初期症状を評価し、必要に応じて専門医を紹介します。認知症の診断や治療には神経科医(neurologist)や私のような老年科医(geriatrician)が精通しています。また、アルツハイマー協会(Alzheimer’s Association)や地域の医療機関が提供するサポートサービスも有効に活用できるかもしれません。心配であればまずかかりつけ医に相談しましょう。
健康の大疑問著者:山田悠史出版社:マガジンハウス新書
山田悠史■米国老年医学専門医。マウントサイナイ医科大学老年医学・緩和医療科所属。ニューヨークで臨床医として活躍する傍ら、日本のニュース・メディア「NewsPicks」の公式コメンテーター、新型コロナワクチンの正しい知識の普及を行う「コロワくんサポーターズ」の代表を務める。また、講談社ウェブ・マガジン「mi-mollet(ミモレ)」での連載や、音声コンテンツ「医者のいらないラジオ」配信なども行い、多岐にわたって活動。2023年1月に上梓された『健康の大疑問』(マガジンハウス新書)が絶賛発売中。在米日本人の生活と医療を支えるNPO、FLAT・ふらっとの代表メンバー。
参考文献
世界保健機関(WHO) https://japan-who.or.jp