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補聴器の話

今回は90歳の男性の話をしよう。

別の場所で購入した補聴器の調子が悪いとのことで来院。補聴器の保証期間が切れているので、最初の場所では見てもらえなかったそうだ。片方の補聴器は電池が切れていたが、新しい電池を入れても音が小さくて使いものにならなかった。もう一方は完全に故障しており、どちらも保証期間が数週間前に過ぎてしまっていた。この男性は耳元で大きく話さないと聞こえない状態で、付き添って来られた奥様ともほとんど会話ができず、認知症というわけではないのだが、なぜ自分がここにいるのかすら知らされていない様子だった。

耳の中を見ると、両耳とも鼓膜が破れていて、鼓膜裏にある骨が丸見えだった。鼓膜が破れるということは、例えば、テレビの音量の通常設定を22にしているとして、その人にとっては4か5の設定で聞いているような状態だ。別の補聴器をつけてもらって補聴器の状態と耳の状態を説明した。古い補聴器は修理に出すことにして、鼓膜についてはすぐ耳鼻科医に行くように伝えて、これからやるべきことを理解してもらった。

奥様はすぐに耳鼻科医に予約をしたのだが、2週間ほど待たされ、私が行った聴力検査の結果を見た医師は、両耳をきれいに掃除しただけで診察を終了してしまい、鼓膜が破れていること、それに対してどのようなオプションがあるか、今後どのように気をつけるべきかなど、まったく説明せずに終わったそうだ。奥様は、鼓膜再生手術も含めて私から詳しい説明を受けていたので、この医師の対応に困惑して、修理から返ってきた補聴器を受け取りに見えた時に、私に相談してきた。病院の報告書を読んでみると「両耳鼓膜破損」という内容が医学用語で書かれていて、私が指摘するまで、奥様はその意味を理解していなかった。

確かに、耳の中はきれいになっていたが、本来ならば鼓膜に守られている骨が丸出しというのが良いわけがない。バクテリアなどが繁殖し、より大きな被害をもたらすことが予想された。医師は、「この患者はもう90歳だから、手術も含めた情報を言ってもしょうがない」と思ったのだろうか? 医療に携わるものとして、この医師の対応に困惑と憤りを感じた。

私が信頼する耳鼻科医を紹介したくても、彼らの健康保険が特殊なため紹介することができない。とりあえず、修繕された補聴器を彼の聴力に合わせて設定し、今後どのように耳を守っていくかを説明した。男性は手術はイヤだと言っていたので、手術情報が提供されなくても結果的には良かったわけだが、必要な情報は提供されるべきだと思った。補聴器の保証期間、治療と今後の処置に関する情報の提供、保険による診察制限など、ご夫婦が経験したことは、アメリカの高齢者にはありがちな話だ。彼らの年齢になると、人と会話をしたりテレビを見たりすることが唯一の楽しみということも多く、補聴器は生活の中で重要な役割を担うことになる。何十年も支え合ってきたご夫婦が、今後も仲むつまじく暮らしていけるように、できる限りの協力をしていきたいと思った。

多忙な医師の前ではつい遠慮してしまうかもしれないが、自分の体のためなのだから、聞くべきことはどうかしっかり聞くようにお願いしたい。

[耳にいい話]