健康な歯でスマイルライフ
日本では北海道医療大学歯学部で博士号を取得。米国でもロマリンダ大学歯学部を卒業し、2005年にPAN-PACIFIC DENTISTRY(パンパシフィック歯科医院)を開業した中出修先生に、アメリカで生活する日本人へ向けて歯や口腔について、説明していただきます。
なぜトップアスリートの口の中は不健康なのか
トップアスリートは一般の人々よりも多く歯を磨くにもかかわらず、口腔の健康状態は必ずしも良くないとの驚きの結果が、最新のイギリスの研究により報告されています。今回はこの話題を中心に書きたいと思います。
研究の概要
『ブリティッシュ・デンタル・ジャーナル』(227:P276~280、2019年*)によると、ユニバーシティー・カレッジ・オブ・ロンドン歯科部門の研究チームは、11種目における男女352人のオリンピック選手とプロのアスリート(サイクリング、水泳、ラグビー、サッカー、ボート、ホッケー、セーリングなど)に口腔内検査を実施。虫歯、歯周病、歯の酸触症について調べました。研究者は、同時に聞き取り調査を行い、歯と歯肉を健康に保つためにしていることについて情報を収集しました。
その結果、ほぼ半数となる49.1%において、未処置の虫歯、初期の歯肉の炎症が見られ、しかも32%はそのためにトレーニングやパフォーマンスに悪影響が出ているとの報告がありました。一方で、彼らの口腔衛生のための習慣に関しては、一般人よりもむしろ良かったのです。検査を受けたトップアスリートで1日2回の歯磨きが94%、フロス使用が44%だったのに対し、一般人は1日2回の歯磨きが75%、フロス使用が21%という結果に。また、彼らは喫煙せず、日々の食生活も一般人より健康的でした。
それなのに口腔内に問題がある理由については、トップアスリートが定期的に摂取しているスポーツドリンク(87%)、エナジーバー(59%)、エナジージェル(70%)などが歯のダメージを引き起こしているのではないかと考察しています。
*Volume 227 | British Dental Journal (nature.com)
この研究からの教訓
いくら歯磨きやフロスを頑張っていても、スポーツドリンクやエナジーバーなどを頻繁に摂取すると、歯や歯肉の健康には相当悪影響を及ぼします。こうした製品には砂糖が多く含まれており、そのほとんどが強酸性のため、歯のダメージにつながってしまいます。
また、カフェインが含まれる場合も多く、カフェインによる唾液分泌減少から、口腔乾燥症を引き起こしている可能性もあります。口腔乾燥症になれば、虫歯にも歯周病にもかかりやすくなります。
対策として、これらの製品を利用する頻度や時間の軽減、高濃度のフッ素入り歯磨き剤の使用などが求められます。
まとめ
スポーツ界で活躍するトップアスリートと歯科の連携も、これからより進むでしょう。トップアスリートの口腔状態を守る改善が急務だと考えます。