シアトル駐在日誌
アメリカでの仕事や生活には、日本と違った苦労や喜び、発見が多いもの。日本からシアトルに駐在して働く人たちに、そんな日常や裏話をつづってもらうリレー連載。
取材・文:磯野愛
#18 永峰正規 神戸シアトルビジネスオフィス(神戸市役所シアトル事務所)
◼️兵庫県出身。2018年5月よりシアトルに駐在。テニスをこよなく愛し、夫婦でプレーをすることも多い。先日ついに自宅でガットを張るマシンまで購入。太陽の下で思いっきりプレーできる夏が今からとても待ち遠しい。
2年間の民間企業勤務を経て、2000年に神戸市役所に入庁しました。大学生の時に阪神・淡路大震災があり、実家も半壊したのですが、自分が街の復興に何の役にも立てなかったという後悔の気持ちが強く、神戸に貢献したいという思いから転職を決意しました。
最初に配属された神戸市内のイベントを企画・運営する部署では、三ノ宮駅近くで行われる「インフィオラータこうべ・北野坂」の立ち上げにかかわり、地域の盆踊り大会の運営もしました。その後、環境問題やごみ収集を担う環境局では人事労務担当、神戸港の管理を行う部署では経理担当として勤務。そこから保育所運営の部署に異動となり、公立保育所を民営化するプロセスを進めました。
その後、神戸ポートアイランドで進める「医療産業都市構想」を推進する部署で、医療関係企業の誘致と企画の仕事をおよそ5年間経験しました。震災からの復興事業である「医療産業都市構想」は、ポートアイランドに医療産業を集積させて神戸発の高度な医療技術を生み出すというもの。全国からの復興支援に対して、人の命を救うという形で恩返ししようと始めたプロジェクトです。ノーベル生理学・医学賞を受賞した本庶 佑(ほんじょたすく)先生が理事長を務める外郭団体と市がこの構想を推進しています。具体的には、研究を進めたい医療従事者と企業をマッチングさせるサービスの提供、新規参入を後押しするレンタル研究室の用意など、行政としてコミュニティー間の橋渡し役を担いました。
神戸シアトルビジネスオフィス(神戸市役所シアトル事務所)には約1年前に赴任しました。駐在員は私ひとりで、現地採用のスタッフと2名でオフィスを切り盛りしています。ここでのミッションは、神戸市をIT関連のスタートアップ企業がたくさん生まれ育つ街にするにはどういった環境づくりが必要なのか、シアトルやシリコンバレーなどからそれを学ぶことと、それを実現するためのネットワークづくりです。神戸市は3年前からシリコンバレーの著名なベンチャーキャピタルである500Startupsと日本で初めて連携し、IT起業家支援プログラムを行っています。また、行政や地域の課題をITスタートアップと連携して解決する日本で初めての事業を昨年開始しました。このような神戸市の取り組みは日本で大きな注目を浴びつつあります。医療産業都市担当時にスタートアップ企業の支援企画を動かしていたこともあり、現場を直に見てみたいという気持ちでこのポジションに応募しました。月の4分の1くらいはサンフランシスコにも行きます。日系・米系問わず各種企業、スタートアップ企業を訪問し、ミートアップなどに明け暮れる毎日です。
神戸市がシアトルやシリコンバレーのような存在になるにはやはり、高度な技術を開発する人材が必要。日本も2020年から公立小学校でプログラミング教育が義務化されますが、現場の教師がその内容を熟知している必要があります。そこで、教師の勉強会をスタートアップ企業に担ってもらうプロジェクトを立ち上げました。海外との競争に負けない独自性を出していくことができれば、神戸市も将来良い人材が生まれ、そして集まってくる場所になれると信じています。
自宅はイサクアにあります。家族は妻と現地校6年生の娘、同じく3年生の息子です。息子は登校初日に早速大トラブルが……。帰りのスクールバスで寝過ごし、バス停で降りてこなかったのです。何をどうやってか自力で学校まで戻り、無事に学校でピックアップできましたが、親として心配で、悩んだ末にスマートフォンを持たせることにしました。子どもたちの宿題を見ていると、ここでは覚えたりなぞったりすることよりも、自分でどう思うのか、なぜそうなると思うのかを問われる、アウトプット重視の教育が印象的です。「アイデアを形にしてアウトプットする」という成功体験の積み重ねが、将来の優秀なエンジニアや起業家を育む土壌だなとつくづく感じます。出張が多い私に代わって家族を支えてくれる妻には本当に感謝しています。趣味のテニスは夫婦で楽しんでいます。私はチームに所属し、リーグ戦にも参戦。全米オープンは必ず観に行きたいと家族で話しています。ビールも好きで先日uKegも購入しました。ビール好きの方には本当におすすめ! たくさんの地ビールがそろうシアトルは最高ですね。