シアトル駐在日誌
アメリカでの仕事や生活には、日本と違った苦労や喜び、発見が多いもの。日本からシアトルに駐在して働く人たちに、そんな日常や裏話をつづってもらうリレー連載。
取材・文:磯野愛
#24 小川太輝(たいき)
◾️東京都出身。2014年農林水産省入省。水産庁配属。現在は人事院の留学制度を活用し、ワシントン大学海洋環境政策大学院で勉強中。公用旅券での渡航につき2年間日本に戻ることができないという環境の中、何よりも恋しいのは旬のアジやイワシといった大衆魚の刺身と塩焼き。
釣りやスキューバダイビングを楽しむ両親の影響で幼い頃から海と魚が大好き。東京海洋大学では水産資源の持続的な利用・管理について学びました。私たちが当たり前に食べているマグロ・サバ・イワシといった貴重な水産資源を、これからも食卓に提供し続けられるように研究を続ける中で、交換留学生としてノルウェーにも渡り、サーモンの養殖場でも研修を積みました。その後は東京大学大学院にある大気海洋研究所に進学。魚に囲まれた学生時代を送りました。
学生の頃から強く感じていたのは、世界各地の漁獲量が増加・高止まりし、一部の水産資源の状況が悪化する中、魚の一大消費国である日本は、その問題を解決する責任の一端を担っているということ。大好きな魚と海を守り、これからも安心して魚を食べられるようにしていきたいという思いから、念願の水産庁に入庁しました。配属となったのは国内の魚を専門に管理する部署。漁獲量を設定するほか、他国の政策を分析・比較しながら国の水産資源に関する政策をまとめるのが仕事です。日本は全国津々浦々、多種多様の魚が獲れることが魅力で、魚の種類や場所に合わせた独自の資源管理が行われています。国だけでなく、日々の漁獲量に生活がかかっている漁師の皆さん、そして自治体も一緒になって政策を策定し、将来にわたってその恵みを享受し続けるための最善策を考えて決定されます。漁業の現場に近いところでの経験から、多くのことを吸収できました。その次に配属されたのは、マグロに関する国際交渉をまとめる部署でした。日本で消費されているマグロの約60%はミクロネシアやパプアニューギニアといった太平洋島嶼国の水域で獲られています。日本の漁船が各国の水域で漁をさせてもらえるよう、相手国の水産大臣や関係者と入漁料や条件を取り決める仕事に携わっていました。
水産資源の管理に関してはNPFC(北太平洋漁業委員会)など国際機関で決められるルールもたくさんあります。世界的に魚の消費が拡大する中、今後ますます、日本がリーダーシップを取って、漁業資源を守り、持続的に利用していく仕組みを作る必要があります。それに少しでも貢献できる人材になるべく、昨年7月からワシントン大学の海洋環境政策大学院で学んでいます。このプログラムの良いところは、これまで研究してきたような「海の中にはどれだけ魚がいて、持続的に利用するためにはどれだけ獲っても平気なのか? どれだけ規制すべきなのか?」という理系の統計的アプローチだけでなく、経済学や人類学、政治学、文化的側面など、多角的な視野から水産資源の管理について学べる点。世界的に著名な教授陣もそろっています。比較的少人数で構成されるクラスのおかげで、きめ細かな指導を受けられます。クラスメートはアメリカ人ばかり。日本の水産庁や海上保安庁に当たる機関、環境保護団体、マスコミ、水族館など、さまざまな職務経験を持つメンバーが集まっています。国際会議さながらに、日本から来た私の話をとても興味深く聞いてくれるので、大きなモチベーションになります。今年の夏は、ローマに本部を置くFAO(国連食糧農業機関)でのインターンシップも経験しました。
1人当たりのコーヒー消費量が世界第1位のノルウェーに留学していたこともあり、実はすっかりコーヒー中毒。勉強が忙しく、なかなか時間が取れませんが、シアトルでは妻と一緒にカフェめぐりに出かけるのが休日の楽しみです。サッカーが好きで、シーズン中は、シアトル・サウンダースFCの試合観戦にも行きます。シアトルは水産業が盛んなため、国内外の水産会社の方から話を聞く貴重な機会にも恵まれ、とてもありがたく感じています。将来は日本の代表団の一員として、国際会議の場でしっかりイニシアティブを取っていけるよう、愛する魚と海のためにも頑張っていきたいと思います。