機械翻訳の精度は飛躍的に向上。でも、よく読むと「あれれ?」な部分も。ちょっとしたコツで見違えるほど自然な日本語に直せる技を紹介します。
【今回の例文】
My father never retired. He used to say that when you retire, you die. He owned and ran his business as long as he could. When he was 88 years old, and no longer able to handle it, he turned the business over to my sister. I feel the same way about retirement as my father. Why would I retire from my work when I love it so much? What could be better than a career developing new methods to learn about building wealth and reducing taxes, and then teaching those methods to millions of people? To me, retiring and giving up the work that I love would be a sort of death.
(出典:トム・ホイールライト著『資産はタックスフリーで作る』)
【機械翻訳】
私の父は退職しなかった。父は「引退したら死ぬ」と言っていた。父は、自分ができる限りビジネスを所有し、運営してきた。父が88歳になって、もう手に負えなくなったとき、父はビジネスを私の姉に譲った。私も父と同じように退職について考えている。こんなに好きな仕事なのに、なぜ引退しなければならないのか。富を築き、税金を減らすための新しい方法を開発し、その方法を何百万人もの人々に教える仕事ほど素晴らしいものはない。私にとって、引退して好きな仕事を放棄することは、一種の死を意味する。
(DeepL翻訳)
【修正後】
私の父は生涯現役だった。「引退する時は死ぬ時だ」と常々言っていた。父は体力の続く限り、事業を営んでいた。そして88歳になって、これ以上続けられなくなった時、私の姉に譲った。私も父と同じ考えだ。こんなに仕事が好きなのに、なぜ引退しなくてはならない? 私の仕事は、資産形成や節税の仕方についての新しい方法を生み出し、多くの人たちにその方法を教えることだ。これ以上、楽しい仕事はほかにない。私にとって引退して大好きな仕事ができなくなるということは、ある意味死ぬようなものだ。
今回から文芸翻訳に挑戦していきます。文芸翻訳(出版翻訳とも言います)は実務翻訳と違い、訳文の正確さもさることながら、読み物として成立していなければなりません。読みやすさが重視されるため、日本語の文章力、表現力が問われます。また、実務翻訳では翻訳者の個性を前面に出すことはできませんが、文芸翻訳では訳者の個性が生かされます。正解のない文芸翻訳の世界を、ぜひ垣間見てください。
今回のポイント
①単純な文章ほどこだわる
「My father never retired.」のように、単純な文章ほど訳者の力量が如実に表れます。前後の関係から父親は自由業であることがわかっているため、定年がありませんから、「生涯現役」という表現にしました。文脈によっては「命尽きるまで働き続けた」あるいは「父の辞書に『引退』という文字はなかった」などとすることも可能でしょう。
②省略することを恐れない
英語と日本語では当然ながら文法が異なるため、英語では省略できない主語や目的語なども、日本語では省くと良い場合があります。機械翻訳の例を見てください。主語の「父」が続いていて、くどいですね。「退職について」も不要。「私も父と同じ考えだ」で十分意味は通じますし、スッキリします。
③日本語のセンスを磨く
「He owned and ran his business as long as he could.」を「父は、自分ができる限りビジネスを所有し、運営してきた」と訳しては、いかにも直訳調です。「父は体力の続く限り、事業を営んでいた」とすると自然な日本語になります。