シアトル近郊の専門家たちが、悩み多きバイリンガル子育てについて回答。子どもと楽しむ、子育てのヒント。
Q. バイリンガル教育は、「9歳の壁がある」と言われていますが、乗り越えるには、小さいうちからどう心がけるべき?
A. ブレないことが大事。子どもが英語ばかり話すようになっても、日本語を母国語とする親は日本語で話すという信念をしっかりと持ちましょう。
小さい頃はいつも、お母さんあるいはお父さんと日本語で会話をしていた子どもたちも、現地校に行くようになると英語が主流になり、兄弟、姉妹との会話も、友だちとの会話も英語になります。そこで親は、自分が日本語で話していたら子どもがわからないんじゃないか、自分も英語で話したほうがいいのかと、だんだん不安が出てきます。それに加えて、現地校の先生から「英語の読解力が低い」とか「ESL/ELLに行く必要がある」とか、面談の席などで言われると、その不安はピークに達します。「日本語は、もういい。それより英語を強化しなくては」と思うようになり、バイリンガルの道を断念してしまうのが9歳頃。子どもが大きくなってから、自分で日本語を勉強したくなったらすれば良いと考える方が多いのです。
この思考回路は、よくわかります。目の前の現実として、アメリカは英語の環境ですからね。でも、そこでギアを入れ替えて、もうひと踏ん張りすると子どもはバイリンガルに育ちます。
私は、アラスカ州アンカレッジにある公立校のイマージョン・プログラムで10年間、教鞭を執っていました。このプログラムはアメリカの算数や理科、社会科などのカリキュラムを、幼稚園から高校まで日本語で学ぶというもので、シアトルやオレゴン州ポートランドの公立校でも実施されています。現地のアメリカ人の子どもたちは当然、日本語のボキャブラリーは少なく、質問も英語でしてきます。しかし、教師は日本語で答え、授業ももちろん日本語だけ。彼らが理解できる易しい文章やボキャブラリーで教え、教材も教師がアメリカのカリキュラムを日本語で書き換えます。英語のほうがはるかに楽ですが、あえて日本語で答え、教えるのです。
とにかく、ブレないこと。バイリンガル教育は、このひと言に尽きます。
高校まで通い、日本語イマージョン・プログラムを卒業する生徒は、数こそ当初の半分以下に減りますが、みんな発音も良く、日本語が上手。卒業式のたびに、すごいなあと思ったものです。実は、私の娘もこのイマージョン・プログラムの卒業生です。小学5・6年生の頃、日本語も英語もわからなくなって、単語の覚えもめちゃくちゃになり、中途半端な時期がありました。母親の私は、それでも日本語で押し通しました。親が不安になる気持ちは、よくわかります。
子どもたちが英語で返してきても、根気強く日本語で言い換える、日本語の本を一緒に読む、日本のドラマ、アニメを観る、日本のおじいちゃん、おばあちゃんとビデオ通話アプリを使って話をするなど、とにかく日本語のシャワーを浴びせましょう。今は、昔に比べ、はるかに情報にあふれています。英語環境にあっても日本語にどっぷり浸かるイマージョン教育が、家庭でもできるのではないでしょうか。
子どもたちが親の母国語を学ぶのは、アイデンティティー形成のためにとても大事。「私は誰?」にならないように、しっかりバイリンガル、国際人になって欲しいと思います。大人になったら、きっと子どもたちは「日本語を教えてくれてありがとう」と、親に感謝するはずです。応援しています。
9月7日(土)午前10時から午後3時まで、アガペ日本語学校で予約制の無料説明会があります。質問などがあれば、その時に回答できますので、メール(info@agapejapaneselanguageschool.org)で予約をお願いします。
教えてくれたのは
アガペ日本語学校
マウリー麗子さん
ゴンザガ大学大学院教育学修士号を取得。ワシントン州の教員免許取得。日本、ワシントン州、アラスカ州などで、35年以上の教師経験。アガペ日本語学校校長。イマージョン・プログラムを含む長年の教師経験を生かし、独自のカリキュラムで生徒ひとりひとりに合わせた日本語教育をアガペ日本語学校で実践中。
⬛️Agape Japanese Language School
8815 S. Tacoma Way, #102, Lakewood, WA 98499
☎︎253-212-3957
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