中高生の親なら気になるのが、受験環境。刻々と状況が変わる中で不安な日々を過ごす受験生も多いことでしょう。アメリカの現地校情報や受験事情に詳しいベルJコンサルティング&アドバイザリーの末吉陽子さんと小島はるかさんに聞きます。
Bell J Consulting & Advisory, LLC■末吉陽子さん、小島はるかさんが、自身が困惑した経験をもとに、小中高の現地学校情報から米国大学受験事情までを日本語で提供するセミナーと個別相談を行っている。2009年開始時はベルビュー学区対象であったが、現在はシアトルほか広域に対応した内容でオンライン・セミナーを開催している。
共通テストに関する日米での動向
日本ではちょうど1年前に約30年続いたセンター試験が廃止され、「大学入学共通テスト」がスタートしました。試験の出題形式は大幅に変更され、より思考力や判断力が問われるように。当初は外部の英語テスト導入が目玉のひとつでしたが、それは見送りとなり、内容も二転三転。受験生たちはコロナ禍で新テストへの不安を抱えながらの受験を余儀なくされました。
ここアメリカでも、コロナ前から大学受験環境に変化が起きています。2020年5月、カリフォルニア大学は人気の高いバークレー校やロサンゼルス校含め、共通テストであるACTとSATを審査対象から外し、将来的に別の統一テストを採用することを発表しました。さらに、地元のワシントン大学も、それら共通テストのスコアは今後、合否の審査対象としないことを決定。ただし、例外的に高得点のスコアは考慮する(Technically Test Optional)としています。
日本と違い、アメリカの大学受験は試験日というものがなく、年に数回実施されるACTとSATの共通テストが実力を公平に測るツールとして長年採用されてきました。しかし、共通テスト対策コースの受講などにより、スコアはある程度アップさせることが可能です。また、共通テストが高得点であっても大学入学後の高パフォーマンスとの相関関係は見られないとするデータもそろってきたことから、高校での成績を示すGPA(Grade Point Average)をより重視する大学が確実に増えてきているのです。
新型コロナの影響は共通テストにも
そうした傾向がある中、新型コロナの影響で共通テスト自体のキャンセルや受験枠制限が起こり、多くの大学が好むと好まざるにかかわらず、期間限定で共通テストのスコア提出をオプションとする措置(Test Optional)を取らざるを得なくなりました。これは、共通テストのスコアを提出すれば審査対象とするものの、提出しない場合も、それをもって不利になることはない、というのが原則。代わりに別の課題を与える、別のスコア提出を認める、面接を実施する、あるいは代替課題なし、などとその運用は各大学で異なります。また、これを暫定的な措置とする大学と、永続的な導入を決定した大学とがありますので、まずは詳細を確認することが受験準備の第一歩となるでしょう。
一般にSATと言えば英語と数学の2科目を指しますが、地域によってはその出題範囲を10年生までに履修してしまうため、難関大学ではこれまで数学、物理、化学、歴史など大学レベルの内容を出題範囲とするテスト(SAT Subject Test)のスコアを通常のSATに加えて出願要件としていました。しかし2021年1月、SATの主催団体であるカレッジ・ボードが、そのテストとエッセー(SAT Essay)の廃止を発表し、受験生を驚かせました。このテストは、北海道大学、東北大学、慶應大学の帰国子女枠でも出願要件とされていたため、その影響は日本にも及んでいます。
アメリカでは共通テストを完全に排除する(Test Blind)と打ち出す大学も少しずつ増え始め、高校時代のGPAはこれまで以上に重要視される傾向にあります。
共通テスト対策は今後も必要?
ワシントン大学が共通テストの不採用を発表して以降、地元の生徒の間では「共通テストはもう必要ない」とのうわさが広まったようですが、現状はそうとも言い切れない部分がいくつか見られます。GPAが不本意な数字である場合は、本来の実力を示すためにSATを活用できる大学もたくさん存在します。
また、合否のための共通テストのスコア提出は求められなくても、スカラシップのために提出が必要とされるケースもあります。アスリートとして大学へ進学する場合も、合否判定のためのテストとは別に、NCAA(The National Collegiate Athletic Association)の規定として共通テストの受験が求められていますので注意が必要です。
※2022-2023年度は暫定措置として要件除外。
なお、SATのテスト対策にはカーンアカデミー(www.khanacademy.org)が完全無料のオンライン・コースを提供しています。11年生終わりの夏にこれを利用して準備し、12年生の秋にテストを受ければ、ほとんどの大学の出願締め切りに間に合います。
充実した高校生活も評価の対象に
そもそもアメリカの大学は、「ホリスティック・レビュー」という方式で、生徒のあらゆる面を評価対象として、入学の合否を判断します。学業以外の部分も評価されるため、バランスの取れた高校生活を送り、見聞や視野を広げることが大切です。勉強一辺倒にならないよう、高校に入ったら早い段階でボランティア、スポーツ、クラブ活動、音楽、仕事など、情熱を注げる何かを見つけられることが理想です。
ただ、いまだ先が見えないパンデミック、そして受験制度変革の渦中で受験準備に入る子どもたちが実際にバランス良く学業とアクティビティーを両立するのは難しく、思い通りにならないことのほうが多いかもしれません。共通テストの存在意義が問われる中、高校での履修科目の選定とその成績のウエートが高くなり、受験のストレスやプレッシャーはより増したとも言えるでしょう。
パンデミックが収束に向かい、ニューノーマルな生活が定着したとしても、大学受験環境が年々変化し続けることは間違いありません。そんな子どもたちの置かれている状況を理解するための情報収集、そして子どもの興味や気持ちを尊重し受け止めてメンタル面をサポートすることが、今まで以上に大切な親の役目になっていると感じています。